tower eleven museum
ができるまで
新人プランナーが挑んだ
北海道ボールパーク
Fビレッジ

中田 裕真
中田 裕真
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中田 裕真

2023年3⽉、北海道⽇本ハムファイターズの新球場、エスコンフィールドHOKKAIDOと、周辺エリアを含む北海道ボールパークFビレッジが誕⽣しました。
そのエスコンフィールドHOKKAIDO内、TOWER 11(タワー・イレブン)2Fに、今回ご紹介する「tower eleven museum(タワーイレブンミュージアム)」が開業しました。美術館でも博物館でも科学館でもない、⼀⼈ひとりが未来を、世界を、地球を、そして⽣きることを考えるきっかけを提供する、全く新しいミュージアムです。

革新的なミュージアムが、エスコンフィールド内に開業

乃村工藝社は、「誰も経験したことのない新しい観戦体験の創出」をテーマに、北海道ボールパークFビレッジ内、複数エリアの企画・デザイン・設計・施工を担当しています。中でもこのミュージアムは、乃村工藝社のみならず様々な企業・大学・アーティストをはじめ、多くの方々が参画されて実現したプロジェクトです。

本記事は、この革新的なプロジェクトに携わらせていただいた入社3年目のプランナー中田の視点から、「tower eleven museum(タワーイレブンミュージアム)」の概要と、試行錯誤しながら担当した展示プランニングのプロセスについてご紹介させていただきます。

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#なぜ、球場の中にミュージアム(tower eleven museum)を設置したのか

従来、球場に併設されるミュージアムは、東京ドームの野球殿堂博物館や阪神甲子園球場の甲子園歴史館、さらには野球の本場アメリカ、Yankee Stadiumでもヤンキースの歴史を紹介するミュージアムが設置されるなど“野球や球場をテーマ”とするミュージアムが一般的です。

しかし、「世界がまだ見ぬボールパーク」を目指す北海道ボールパークFビレッジは、試合開催がない日でも来場者が気軽に立ち寄れるボールパークを目指し、このミュージアムについても計画当初から“野球をテーマにしない”ミュージアムとして企画がスタートしました。

タワーイレブン(TOWER 11)施設名の由来とは?
かつて日本ハムファイターズで活躍したダルビッシュ有選手と大谷翔平選手が着用していた背番号「11」にちなんで名付けられました。この2人の選手は現在、アメリカのメジャーリーグで輝かしい成績を収めています。彼らはファイターズの歴史において、新しい道を切り開き、革新的な精神を示したことから、その功績を讃えてこの名前が選ばれています。

tower eleven museumの展示スペース

コンセプト:HOKKAIDO FUTURE PAVILION

「tower eleven museum(タワーイレブンミュージアム)」は来場者に、北海道から世界の未来に向けた視点を持ち、自分自身の生活を考えるきっかけを提供します。

tower eleven museumのコンセプト

オープニング企画展 「WHAT IS LIFE展 〜いのちってなんだろう〜」。
北海道ボールパークFビレッジは街づくりの方針として、地域社会の将来を担う子供の多様な選択肢と成長に寄与する活動に注力することを掲げ、「持続可能な開発目標(SDGs)」への貢献を目指しています。
そのため、オープニング展⽰では、来場者に「いのちとは何か?」「なぜ⽣きるのか?」という根源的な問いを投げかけることで、来場者に新たな発⾒や考えるきっかけを与える展示を⽬指しました。ミュージアムディレクターは、2020年ドバイ国際博覧会 日本館でクリエイティブディレクターを務めた株式会社モンタージュ落合正夫さんが担当され、乃村工藝社は株式会社モンタージュとともに企画・制作を推進しました。

#tower eleven museum全体構成

まずミュージアム全体の構成からご紹介したいと思います。本ミュージアムは、エントランスに最も近いSTEP1(シアター)からSTEP2(展示ゾーン)、STEP3(インタラクティブ映像)と、段階的に展示を鑑賞する流れで構成されています。

tower eleven museum全体構成

出入口が一つになっているため、来場者はSTEP3まで鑑賞したあと、辿った順路を引き返す形で出口に向かいます。このためミュージアムに滞在する間、来場者はSTEP2(展示ゾーン)を2回通るような動線となります。
往路では没入感の高いSTEP1(シアター)の余韻を感じた状態、復路ではSTEP3(インタラクティブ映像)での体験を通して何らかの気付きを得た状態という2つのタイミングで展示ゾーンを通ることで、同じ展示を見ても来場者の受け取り方が変化することを期待しています。

【STEP1】シアター|プロローグ

来場者はミュージアムに⼊場すると最初に、⾼さ3.4mのLEDビジョン5台で構成したダイナミックな映像を鑑賞します。今回のオープニング展示では、「いのちとは何か?」「なぜ⽣きるのか?」という根源的な問いを投げかける、没入感の高い映像体験となっています。

ミュージアム内の⾼さ3.4mのLEDビジョン5台で構成したダイナミックな映像
映像制作:株式会社モンタージュ

【STEP2】展⽰ゾーン|“LIFE”のふしぎを見て、さわって、体験する

ここでは「はんぶんはんぶん」「かくかく」「じわじわ」「ぐるぐる」の4つのキーワードで分類された展⽰を通して、来場者自らが主体的に⽣命や⾃然の不思議さ、⾯⽩さを探求できます。
地球上の⽣き物や⾃然が⽣み出す“かたちの共通性”を主題に、かたちの種類ごとに分類したエリアで構成されています。例えば、⽣物の顔や体の左右対称性を扱うエリア名は「はんぶんはんぶん」というように小さな子供でも直感的に“かたちの共通性”を理解できるようにしています。

「はんぶんはんぶん」「かくかく」「じわじわ」「ぐるぐる」の4つのキーワードで分類された展⽰

【STEP3】インタラクティブ映像|自分と他者を共鳴させる

最後の3つ目のゾーンは、手の指の先に特殊なセンサーを装着し、⾃分⾃⾝の脈拍とほかの⽣き物の⿎動を疑似的に共鳴させるインタラクティブな体験ゾーンです。ミュージアム全体で投げかけられる「いのちとは何か?」という問いかけを最終的に⾃分と結び付け、⾃分⾃⾝も地球を構成するいのちの1つであることを改めて認識できるような不思議な感覚を味わうことができます。

インタラクティブな体験ゾーン

インタラクティブな体験ゾーン
映像制作:株式会社モンタージュ

#【STEP2】tower eleven museumの展⽰ゾーンについて

展示ゾーン(STEP2)のポイント

ここからは、3つのゾーンのうち私が担当したSTEP2の展示ゾーンが、実際にどのように企画され、作られていったのかをご紹介していきます。
デジタル要素の強いSTEP1(シアター)とSTEP3(インタラクティブ映像)に挟まれたSTEP2(展示ゾーン)は受動的な体験ではなく、来場者自身の興味で能動的に展示を選んで自分の手や体を通した体験を提供することを目的に企画しました。

POINT①|シアター(STEP1)の内容補完

ミュージアム全体の体験として⼀貫性を持たせるために、STEP1の映像内に登場した⽣き物・現象をSTEP2の展⽰ゾーンの中にも数多く登場させることを意識しました。その生き物や植物の実物や模型を展⽰したり、現象について詳しい解説を加えたりすることでSTEP1の映像体験を補完しています。

シアター(STEP1)の内容補完
↑実際に自分の手のひらにはっぱを重ねることで、STEP1の映像内に登場する印象的なワンシーンを体験できる展⽰

POINT②|滞在時間を延ばすための体験設計

展示ゾーンで満⾜感を感じてもらうためには、単に鑑賞するだけの展⽰ではなく来場者が実際に⼿を動かして、滞在時間を延ばすことが重要です。特に、⼩さなお⼦さんでも楽しみながら体験できることを意識しました。
例えばハニカム構造の仕組みを直観的に理解してもらうことを目的とした展示は、下の写真のように正六角形のタイルを並べていろいろな形をつくってみる体験を通じて、遊びながら構造について学べるようになっています。

ハニカム構造を直観的に理解できる体験展示
↑ハニカム構造を直観的に理解できる体験展示

展示ゾーン(STEP2)プランニングプロセス

次に、STEP2展示ゾーンが完成するまでのプランニングプロセス(企画の流れ)を振り返ってみたいとおもいます。展示空間に初めてトライした私が企画を進める中で特に重要だと感じたポイントと、完成まで試行錯誤したストーリーをご紹介します。

展示ゾーンが完成するまでのプランニングプロセス(企画の流れ)

01|伝えたい「情報を整理する」

「展示」を広い意味で捉えると、来場者とのコミュニケーションであると考えます。
情報を正しく伝える展示をつくる上で、当然ですが自分自身も伝える内容についての知識が必要不可欠です。正しい情報を間違いなく、わかりやすく伝えることを大前提に、各専⾨家にご協力いただきながら展示ゾーンの制作を進めました。
ミュージアム全体のスペシャルアドバイザーである株式会社SPACE 福本理恵さんに全体を監修していただきながら、北海道大学 電子科学研究所 知能数理研究分野の皆様、JAXAチーフエンジニア 鈴木裕介さん、株式会社えむしーじじょうの皆様には個別の展示内容に対しご協力をいただきました。

例えばロケットに使われる「フェアリング」という部品についての展示コーナーでは、まったく知識のなかったロケットの機種の違いや、各パーツの役割などについて、JAXA統括チーフエンジニアの鈴木裕介さんにご教授いただきながらゼロから勉強しました。
専門知識をある程度頭に入れることで、ようやく専門家の方と展示についてディスカッションすることができます。来場者の立場に立ったときに、知りたい情報は何か、興味が湧くポイントはどこにあるのか議論を重ねることで、おのずと来場者に伝えるべき情報と余分な情報の整理がつき、展⽰するべき内容が定まっていきました。

国産ロケットの主流のラフ画
↑ロケットのパーツ「フェアリング」について勉強した際のノート

02|制作可能な「かたちを決める」

伝えたい情報が決まると次に、どんな展示手法を使って来場者に伝えるかを検討します。リアルな空間にモノをつくる上での制約、安全性の担保、コストなど様々な角度から社内のデザイナーや制作業者と相談し、実際に制作可能な形状を検討していきます。

具体的な展示造作の形状のパターン

例えば、⼈間の体における骨格や、⾎管、臓器の配置の違いを比較する体験を検討していたこちらの展示では、具体的な展示造作の形状について、A 引き出し方式、B 扉方式、C 回転台方式の3つの方向性を順に検討しました。それぞれ実現に向けて検討を重ねると、
A 引き出し方式の場合・・・輪切りのグラフィックがグロテスクに見える可能性がある
B 扉方式の場合・・・安全に開閉する扉の造作が難しい
といった問題点が懸念されました。最終的に、C 回転台方式をベースにして制作することが決まり、⼈間の体における骨格や、⾎管、臓器の配置の違いを比較することができるという当初の企画に沿った展示が完成しました。

人体骨格のイラスト写真
↑実際の展示(※回転のさせやすさを検討し、パネル数は最終的に6面から3面へ変更)

03|実寸出力で「大きさを考える」

展示の内容を説明する⽂章キャプションについては、⽂章の作成からデータ作成まで担当しました。掲載する⽂章がおおよそ決定し、⽂章のレイアウトをillustrator上で検討していた頃、これまでパソコンの画⾯上で確認していたデータを1,800㎜×900㎜の実⼨出⼒をしてみました。
すると、印象は全く違ったものになりました。左の写真が会社にて実⼨出⼒したときの様⼦、右の写真が実際の展⽰の該当箇所です。

データの1,800㎜×900㎜の実⼨出⼒

実⼨出⼒を踏まえて変更した点の一つは、“色味“です。黒背景のグラフィックはパソコンで見る限りではシックでスマートに⾒えていましたが、巨大な印刷物になったときにかなりの圧迫感を感じました。そのため、実際の展示では⽩背景+「?」マークのグラフィックに変更しています。
もう一つは、“文字サイズ”です。来場者が読みやすいよう⽂字サイズをなるべく⼤きく設定していたものの、実寸出力では少し間延びして⾒えました。よって、こちらも実際の展示では⽂字サイズ・文字間を調整し、余白を大きくとったデザインに変更しました。

04|展示物を「立体化する」

ここまでのステップで展示の企画段階はほぼ終了し、あとは造作として立体化していきます。やはり自分が企画書で平面的に描いていたものが実際にリアルな空間に立体化されると、とても感慨深かったです。

中でも印象に残っているのは、展⽰ゾーンの中でひときわ目立っている、約1.5mの⼤きなテントウムシの造作(写真右)です。模様も含めて対称性が認識しやすいテントウムシは、生物の体の対称性を伝える展示物として機能すると同時に、ソリッドな空間の中にポップな色合いを付加することで、展示の中でもアクセントとして機能しています。

立体物の制作過程実際の空間に配置してみると、ポップなカラーリングのテントウムシは、企画書上で想像していたよりも存在感があり、この展⽰の不思議さや奥深さを体現できていると感じました。
開業後にミュージアム来場者のSNS投稿などを見ていると、このテントウムシを撮影しているものも多く、写真映えするインパクトある展示が、来場者の⽬を引いているようです。

#おわりに
プランナーとしてtower eleven museumに竣工まで携って

この「tower eleven museum(タワーイレブンミュージアム)」プロジェクトは、入社後初めてプランナーとして竣工まで携わることができた案件でした。
昔からテレビ中継とは異なる熱気や開放感が感じられる“球場”での野球観戦が大好きで、空間デザインを志したときから、いずれは球場づくりに携わってみたいという夢を抱いていました。乃村工藝社の就職⾯接でも「球場づくりに関わりたいです」と話しましたが、まさか⼊社後すぐ、北海道ボールパークFビレッジというこの⼀⼤プロジェクトの一部に関わらせていただけるとは思ってもいませんでした。
社内外の多くの知見を持ったプロジェクトメンバーの皆様と共に実現できた今回のプロジェクトでは、自身の学生時代の夢が叶った喜びと同時に、これからのプランナー人生の糧となる、非常に学びの多い貴重な経験となりました。

最後になりますが、この業務でご一緒させていただいたプロジェクトチームの皆様に、この場を借りて感謝申し上げます。

<乃村工藝社 プロジェクトメンバー>
営業プロジェクトマネジメント 髙杉良介さん、デザイナー 中村寿考さん、プランナー 安田哲郎さん、山田知佳さん、施工管理 遠藤直樹さん

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中田 裕真

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プランナー
みんなが楽しめる、テレビみたいな空間

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