北海道ボールパークFビレッジ
プランナーが仕掛ける新たな空間・体験価値創造

ノムログ編集部
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ノムログ編集部

WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)優勝の熱も冷めやらぬ2023年3月。
「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE(北海道ボールパークFビレッジ)」が、北海道北広島市に開業し、連日多くの人で賑わっています。

*北海道ボールパークFビレッジ公式HPより

乃村工藝社が約5年前から携わり、総力を結集して取り組んだ、世界に類をみない新たなボールパーク開発。今回は、当初より「北海道ボールパークプロジェクト」に携わっていた、プランニングディレクター・坂爪研一とチーフプランナー・安田哲郎が、これまでの開発経緯や企画設計の裏側についてプランナー視点で当時を振り返りながら語ります。

 (左)坂爪 研一|プランニングディレクター (右)安田 哲郎|チーフプランナー

始まりは約5年前。
屋外エリア全体企画からスタート

坂爪
初めて現場を見に行ったときは、雑木林と巨大な更地だけという状態だったよね

安田
雪が積もっていましたね。32ヘクタールある巨大な土地を前に、『ここに世界がまだ見ぬボールパークができるのか』と思ったことを覚えています

坂爪
約5年の月日を経て、無事にオープンして…。開幕戦を見たとき、安田さん、泣いたんだよね

安田
はい。開幕戦の試合前にオープニングセレモニーがあって、冒頭で北海道ボールパークFビレッジのコンセプトムービーがLEDビジョンに流れたんです。それが、つくり手側がすごく感情移入できる内容で『あぁ、ついに完成したんだ』と涙が…。隣にいたデザイナーもやはり泣いていましたね

坂爪
感極まるよね、長い間、頑張ったことが形になったんだから

安田
子どもの頃からスポーツが大好きだったんです。僕は入社して15年目になりますが、乃村工藝社にはこれまでスタジアム・アリーナにしっかり携わった実績が無かったんです。だから、まさか自分がスタジアムの仕事に携われるとは思っていなくて

坂爪
安田さんのその熱いスポーツ愛が今回の仕事には生かされたと思うよ。ほら、例の野球大好きなうざいキャラ(うざキャラ)、クライアントからもネタにされていたし

安田
約5年前のスタート時に、ファイターズの社員さん達との打合せで、僕はその<野球大好き・うざキャラ>ポジションで入っていこうと考えたんですよね。『昨日は勝ちましたね~』『こないだの試合は惜しかったですね~』みたいなトークを必ずするっていう(笑)

坂爪
企画説明の前に毎回そのトークがお約束(笑)打合せではスルーされてたのですが、実は先方も面白がってくれていて、飲み会で『続けてくださいよ』となった

安田
僕の泣いた話とか、うざキャラ話から対談が始まってるけど、大丈夫ですか(笑)

坂爪
いや、キャラクターがあるっていうのは仕事をする上で大事なことだよ

安田
ありがとうございます(笑)

プランナーは話題を創る。デザイナーは空間を創る。

坂爪
当初は屋外エリア全体のプランニングだけだったものが、業務はかなり広がっていったね

安田
本当に。2021年ぐらいから、温浴をはじめ、プランナーとデザイナーが一緒に進める業務が増えていきました。デザイナーが2020年から始まったプレミアムエリア(VIPエリア)でしっかり信頼を獲得したことも一因ですし、乃村工藝社はどういうことができるのか――。それが段々とクライアントに伝わって、仕事が一気に広がった気がします

坂爪
プランナーが入るのは<意匠だけではない仕掛けづくりが必要なとき>だと言ってもいいかもしれないよね。プロジェクトの川上から戦略的に進めた方がよいときがあって、そういったときはプランナーが入ってメインエンジンとなって進めていく

安田
プランナーという仕事について、ファイターズさんも最初は詳しくご存知なかっただろうし、『乃村工藝社といえば設計と施工』っていう一般的なイメージしかなかったと思うんです。それが屋外エリア全体の企画が始まり、プランナーという人間はどういうことができるのか、だんだんわかってもらえて…

坂爪
そのうちに『あれも乃村さんでいいんじゃない』『これも乃村さんで』となっていったよね。後半はコンペではなく、指名でもらった仕事が多かった

安田
乃村工藝社におけるプランナーとデザイナーの、北海道ボールパークFビレッジでの役割。この間、坂爪さんが説明されていた言葉が端的でわかりやすいなと思ったんですけど…

坂爪
『プランナーは話題を創る。デザイナーは空間を創る』

安田
それです!

坂爪
話題っていうのは、ソフトの部分のこと。『この場所で、あの事業を実現させたね』『あのテナントが新しいことを仕掛けているね』みたいな、世の中にまだない新しいことを実現していく。空間の中ではセットなんだけど、その中身の部分を僕は<話題>と呼ぶのがわかりやすいと思ってる。
プランナーは話題を創る・デザイナーは空間を創る。その仕分け方で今回の北海道ボールパークFビレッジの仕事を考えていました

安田
屋外エリアのプランニングやコンサルティングからスタートしたけれど、僕らの目指すところはスタジアムの中だというのは最初からイメージしていたし、その機会をずっとうかがっていたところはありましたよね

坂爪
僕がいまの安田さんぐらいの年齢の頃は、東京スカイツリータウン®(以降、スカイツリー)のプランニングをしていた。スカイツリーも当初の6年間はプランニングが先行して動き、開業までに7年半携わったけれど、開業後の今も乃村の業務は広がっている。その時の経験で『先行して(仕事に)入っていることは絶対に強いんだ』という気持ちがあったし、それはきっと北海道ボールパークFビレッジでも同じなはずだと。

安田
乃村工藝社は企画も設計もできる――その認識はなにも突然広まったわけじゃなく、それまでの地道な提案の積み重ねがあったからこそだと思っています

屋外エリア全体企画から温浴施設へ。開発裏話も!?

坂爪
プランナーの関わりが深かったエリアの話を、もう少し詳しく話をしようか

安田
まず屋外エリア全体企画。ここは大きな構想はあったけど、細かい与件は設定されていませんでしたね。
『屋外になにかつくるとしたら、どういうカテゴリーの、どういう施設をつくったらいいのか?』と、毎回お題が変わっていく状況から始まりました

坂爪
『野球場の外にも人が集まる魅力をつくってほしい』という、抽象的なお題からスタートしたよね。
『新駅からのアプローチにドラマチックな演出がしたい』『屋外に集客するためにはどんなテーマで何を持ってくればいいのか』と、最初は依頼の幅が広かった。与件が無いなりに、『この規模でできる事業って何?』という部分から検討をしてみたり。それで、他の事例を徹底的に調べて『ここは、この事例で何万人集めてる』『このテーマが合うんじゃないか』みたいなことをチームで資料をつくって先方と詰めていった

安田
プランニングってアイデア出しだけじゃないんですよね、それが実現できるかどうかを詰めることが重要。裏話になりますが、没案をちょっと。球場から約150m、現在KUBOTA AGRI FRONTがある場所に向けて、ジップラインを通して沢を飛び越えるとか(笑)。ミニ観覧車に気球展望台という話も出ましたね

坂爪
その案が実現できるかどうか、事業者にヒアリング。『例えば気球展望台は天候の影響が大きすぎるから厳しそうですね』という返事があれば、それを先方に返す。そういう、相談事を打って返してみたいな期間が2年ぐらい続いた。池をつくるって決まってからも、冬期にこの池でアイススケートリンクが実現できる規模なのか、とか

安田
『モーゼの十戒みたいに、池の下をくぐって人を渡らせよう」なんかも(笑)100本ノックのようにいろいろな提案を出したなぁ

安田
では次に、坂爪さんが携わった温浴の話をしましょう

tower eleven onsen & sauna

坂爪
温泉を掘って温浴施設をつくる構想はファイターズさん側にあったんです。しかし、面積が小さくてテナント事業としてはなかなか厳しいだろうと思っていました。その弱点を強みに変えるにはどうするか?を妄想し、ここでの温浴のあり方を考えていったんです

安田
最初は足湯だったんですよね

坂爪
足湯にしたのは、裸風呂だと男女を別々に作らなければならないので、風呂が倍必要になるんだよね。そこで着替える必要のない足湯を提案した

安田
そうするとバスタブはひとつで済むから、狭いという条件もクリアできる

坂爪
シャワーはいくつあればいいか、どういうお風呂にするか、何人が何時間滞在してどんな楽しみ方をするのか…。シミュレーションを繰り返し、最大120人が過ごせるんじゃないかという仮説を立てた。ゾーニングをつくって叩いてを繰り返し、いまの形ができました

安田
そしてファイターズさんが、あの<ととのえ親方>ことプロサウナ―の松尾大さんに声を掛け、プロデューサーとして入ってもらっています

坂爪
いまのサウナブームをつくった仕掛け人です。おかげさまで、親方とタッグを組んで、様々なことを一緒に解決してスムーズに事が運んだよね。温浴施設は、開業前から非常に注目度が高かったようで、ひと安心かな

あえて野球をテーマにしない、ミュージアム。農業を学べる、体験施設。

坂爪
安田さんがプランナーで入った、tower eleven museum。ユニークだよね。野球場の中にあるミュージアムだけど、野球をテーマにしていない

安田
ファイターズさんは北海道ボールパークFビレッジを、『野球好きの人しか来ない場所にはしたくない』という想いを持っています。『食べる、遊ぶ、泊まる、そんな体験を求めて来場した横で、たまたま野球もやっている。そういうふうにしたい』と。なので、そこに出来るミュージアムはもう少し教育的な観点から、『野球に触れるというよりは、世界に対する気づきを得られるものにしたい』というお話を頂きました

坂爪
野球は興味ないけど、北海道ボールパークFビレッジには行ってみたい。そんな場所にもしたいから、ベースボールミュージアムではないということだね

tower eleven museum

安田
そうです。このミュージアムのコンセプトは『HOKKAIDO FUTURE PAVILION』。体感とか体験によって北海道から世界の未来と私たちの生活を考える、がテーマです。オープニングの企画展は『WHAT IS LIFE展~いのちってなんだろう~』。アート、シアター、展示、インタラクティブコンテンツにより、自然が生み出す造形、人々が築いてきた文明などの不思議を直感的に体感できる新感覚のミュージアムです

坂爪
俺、札幌でいろんな人に声をかけて、北海道ボールパークFビレッジについて聞いてるんだよね。そうすると、野球に興味ない人も『ニュースで見た、楽しそうな場所だから行ってみたい』と話して下さる。
これは、ボールパーク創りチームの狙い通りだな!と嬉しくなりますね。『ファンや地域の皆様と一緒になって、地域の活性化や社会への貢献に繋がる』、そこが大事だから

安田
(株)クボタさんが手がけたKUBOTA AGRI FRONTもプランナーの関わりが深いですよね

KUBOTA AGRI FRONT

坂爪
ここは、もともと「農業にまつわる施設」にしようと構想していた場所だったよね。開発当初はなかなか事業者が決まらない難しいエリアだった。そこに、ファイターズさんから(株)クボタさんにお声がかかり、話がダイナミックに展開した、チームにとって「一番印象に残るプロジェクト」になったんだ

安田
(株)クボタさん内部でガラスハウスで作物を育てること、自社の事業を伝える企業施設にしたい、ということはお話されていたみたいですが、弊社メンバーと「濃い合宿」を重ねるうちに、コンセプトが生まれ、「食と農業の未来を志向する仲間作りの場」というキーワードから、子どもの農業学習の施設にしよう!と合意してプロジェクトが進んでいったんでしたよね?

坂爪
(株)クボタさんは、事業者として、「小・中学生に日本の農業の課題を伝えて、農業の大切さを知って欲しい」という想いがある。だから、農業と食にはいろんな人が関わっていることを知り、体感できるシミュレーションゲームをやることで、食の広がりを感じてもらえる施設となりました。私は、カフェの業態開発と全体の調整役。ある意味、プロデューサーとして参加しています(笑)。 現在はカフェのみ開業していて、6月30日にグランドオープン予定です

進化を続ける北海道ボールパークFビレッジ。
今後も新たな「話題創り」に携わっていきたい。

安田
今回の施設は<時間の過ごし方>をつくっているんだなと常に感じていました。野球場にミュージアムや農業学習施設があるっていうのは、日本には他にないですよね。いろんなピースが集まっていくことでFビレッジとして強くなりますから。でももちろん、ファイターズを愛するファンの皆様にも喜んでほしい。そこで、僕がプランナーとして関わった、野球×アートの話を最後に話してもいいですか

坂爪
グラフィックデザイナーの木下真彩さんと一緒に、プレミアムエリア(VIPエリア)に飾られるベースボールアートを乃村工藝社のデザイナーと一緒に制作したんだよね

プレミアムエリア(VIPエリア) ベースボールアートと木下真彩さん

安田
はい。自分が関わったベースボールアートは2種類あって、1つ目はdocomo CLUB LOUNGEにある高さ5mくらいの巨大なウォールアートです。2つ目はファイターズの9人の選手をグラフィックデザイナーである木下さんに絵画アートとして描いてもらい、BALCONY SUITEの廊下に飾ってあります。
僕は乃村工藝社のデザイナーと一緒に膨大な写真資料の中から、どういうアングルでどういうシーンを描いたら良いのかを考えながらセレクトし、木下さんにお伝えしていきました

坂爪
docomo CLUB LOUNGEの方は2006年にファイターズが初めて北海道で日本一になったシーンをアート化したんだよね。ここで冒頭の<野球大好き・うざキャラ>の話に戻るわけだけど、ファイターズさんからも『野球好きの安田さん』と認められたからこそ、社内で『プレミアムエリア(VIPエリア)のベースボールアートは安田くんに監修してもらおう』となった。熱い思いを持って仕事と向き合っていれば、必ず繋がっていくんだよ

安田
ベースボールアートのお話をいただいたときは本当に嬉しかったです。また、今回ボールパーク開発に携わったことで、新たな目標ができました。スポーツ観戦がスポーツ好きの人のものだけじゃなく、みんなの生活の中に当たり前に組み込まれている世の中をつくりたい――それが夢であり目標です

坂爪
海外では日常的に、野球場に足を運ぶ、という文化があるものね、特にファンでなくても

安田
スポーツ好きの人に向けては、座席や空間の仕掛けを工夫して、もっとスポーツ観戦に没入できる空間をつくりたい。また、スポーツ観戦が目的ではない人に向けては、家族や友達と一緒に時間を過ごす延長線上の中に、スタジアムやアリーナがある――そういった施設をつくっていきたいと考えています。
僕と坂爪さんなら、デザインだけではなく、話題作りも含めいろんな仕掛けを考えていくことができると思うんです

坂爪
北海道ボールパークFビレッジで培ってきたものがたくさんあるからね

安田
ですから、面白いスポーツエンタメ施設をつくりたいなっていう方がいらっしゃいましたら、ぜひ坂爪さんや安田にお声がけください!

坂爪
お任せください。北海道ボールパークFビレッジについても、開業してひと区切りはついたけど、もちろんこれで終わりだとは思ってない。今後もどんどん進化していくと思います。僕たちにお声がけ頂ければ、プランナーとしてまた新たな話題づくりのお手伝いができるのではないかと…

安田
駆け足の説明でしたが、この対談は乃村工藝社のプランナーが北海道ボールパークFビレッジでどんな仕事をしたのか、そのプロローグ編という位置付けなので、このあたりとしましょうか

坂爪
もっと深くて詳しい話は、我々だけではなく、携わったプランナー達が、今後ノムログで記事を公開していくので、そちらもお楽しみに!

安田
日本ならではの目線を取り入れた、世界でここだけにしかない新しいボールパーク。それが北海道ボールパークFビレッジです。世界一のボールパークだと自信を持って言えます。
ぜひ多くの方に、遊びに行ってほしいです!

 


坂爪 研一 | 乃村工藝社 プランニングディレクター

1991年入社。大型複合施設、パーキングエリア、神社活性化、温浴施設、展望台
動物園、キャンプ場等、幅広い守備範囲と実績を持つ。主な施設として、東京スカイツリータウン®、神田明神文化交流館、東北自動車道羽生PA鬼平江戸処等。
近年では、地方創生、道の駅、テーマパーク、農業関連施設等、より広範囲な施設
のプロデュースを手掛けている。商品開発、業態開発、事業開発から街づくりまで、トータルな視点で「集客」をテーマに、未来を創りだしている。

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安田 哲郎 | 乃村工藝社 チーフプランナー
クリエイティブ本部 プランニングセンター企画2部 ルームチーフ

2009年入社。商業施設や集客施設に多く携わり、施設マーケティングからMDプランニングまで幅広く従事。近年ではボールパークやアリーナ等のスポーツエンターテインメント施設づくりに携わり、日本における新たなスポーツエンターテインメント空間づくりに、日々邁進している。

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企画・編集:岡崎 広子(ノムログ編集部)

撮影:市川愛(ノムログ編集部) 文:源 祥子

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“空間と体験”を追求するチーム
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