クリエイティビティで社会とつながる 『エル・デコ』 ブランド ディレクター 木田さんと語る、サステナビリティに取り組む一歩とは?

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未来につなぐアップサイクルファニチャー『SCRAPTURE』。日本最大級のデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO 2023」に出展

2023年10月20日から29日まで開催された「DESIGNART TOKYO 2023」。乃村工藝社は「わたしたちの未来へ- SCRAP MATERIAL UPCYCLE PROJECT- SCRAPTURE」と題して、コンセプチュアルなアートファニチャー「SCRAPTURE(スクラプチャー)」を東京・表参道にある「GYRE.FOOD」に展示しました。「SCRAPTURE」とは「SCRAP」と「FURNITURE」を掛け合わせて創った造語。当社と関わりの深い建材や内装素材で排出される「SCRAP」を「FURNITURE」として補完・展示し、展示の役目を終えた廃材は展示装飾材としてアップサイクルするサーキュラーデザインを目指しています。

今回の巡回展示はアート性の高い演出の中、4台の「SCRAPTURE」を展示。一般の方に実際に座っていただき廃材の美しさやメッセージを感じていただく初の機会です。業界や立場の垣根を越え、よりよい未来と持続可能な社会についてともに考えるきっかけとなることを目指しました。10月23日には「GYRE.FOOD」にお客様を招いてレセプションイベントを開催。本稿ではプロジェクトに携わったメンバーの声とともに、『エル・デコ』 ブランド ディレクター 木田隆子さんとのクロストークや会期中の様子をお伝えします。

飲み物とフィンガーフードを片手に階段状になった椅子にお客様が着席した頃、一見バルーンのようにも見える3台の「SCRAPTURE」の前に登場したのは「SCRAPTURE」のデザイナーである武田慎平。

武田
去年、乃村工藝社は130周年を迎えました。記念事業の一環として、社会につながるデザインプロダクトをつくっていこうとなり、今回のプロジェクトがスタートしました。完成したのが、ここにある廃材とファニチャーを掛け合わせた『SCRAPTURE』です。今後、廃材をうまくアップサイクルさせていくためのハブの役割に我々がなれないか。その思いを込めたデザインとなっています。今回のイベントと『SCRAPTURE』が、未来を考えるきっかけとなれば嬉しいです。

8社の協力パートナーとともに、未来を変えるアクションを

次に、プロジェクトメンバーの亀田奈緒から、8社の協力パートナー企業様との取り組み内容を紹介しました。

亀田
このプロダクトの中に封入された素材は、私たちが普段お付き合いさせていただいている企業様からご提供いただいたもので成り立っています。
(順不同、敬称略)。

株式会社サンゲツ
「『ゴミありませんか?』と最初に電話をさせていただいたのがサンゲツさんです。カーテンの端材や、カタログの背中を止めるナイロンビス、見本帳をセメント原料にリサイクルしたものなどをご提供いただきました」

リファインバース株式会社
「廃棄物を資源として『新しいモノづくり』を行なっている会社です。今回は再生素材の原料としてエアバッグやインテークマニホールドという車の部品、日本国内の廃漁網、カーペットタイルを素材別に分離したものなどをご提供いただきました」

AGC株式会社
「スマートフォンのガラス画面を粉砕したものをご提供いただきました。実は裸足で歩けるくらい細かく粉砕して海の砂浜に撒いた実験を行っていたりされていて、サステナブルに積極的に取り組んでいるとうかがっています」

株式会社GOOD DEAL COMPANY
「使い古しのコルクを回収し、新しいコルクに再生する『東京コルクプロジェクト』を展開されています。今回はコルクのコースターを猫型に抜いた素材を提供いただき、『SCRAPTURE』に封入。カフェにいらしたお客様にも『可愛い!』と大人気でした」

ケイミュー株式会社
「内装素材で最近よく耳にする<SOLIDO>という建材を作られている企業です。施工時に現場で排出される廃材を独自の回収網にて収集したセメントの質感をそのまま活かしたようなリサイクル建材で、その原料をご提供いただきました」

株式会社REMARE
「海洋プラスチックゴミを自社内で加工して建材にされており、『SCRAPTURE』の中には、海に落ちているプラスチックのペットボトルのキャップなどを粉砕したものを色別に分けて細かくしたものを封入しています。非常にカラフルで綺麗ですよね」

アサダメッシュ株式会社
「金属メッシュのリーディングメーカーで、髪の毛よりも細い金属の極細線でメッシュを製造し、主には電子部品への電極印刷や産業用のふるい・フィルターとして使用されています。今回はステンレスメッシュの端材であるプードルヘアーをご提供いただきました。カールの度合い、幅や長さ、金属線の太さは様々になり、同じものは一つとしてありません」

大河原木材株式会社
「埼玉県産や東京都産の杉・檜を主に加工していらっしゃる企業です。プレナーと呼ばれる仕上げ加工機で木材を加工した際に、細かいかんな屑がたくさん出るそうで、今回はとてもいい香りがする檜と杉の削り節をご提供いただきました」

「クリエイティビティで社会とつながる」――『エル・デコ』 ブランド ディレクター 木田隆子さんを迎えてのクロストーク

今回、スペシャルゲストとしてお越しいただいたのは、インテリアとデザインの雑誌『エル・デコ』(ハースト・デジタル・ジャパン)のブランド ディレクターである木田隆子さん。世界のデザイン、ライフスタイルを発信する木田さんと、本プロジェクトのクリエイティブ・ディレクター乃村隆介、デザイナー武田慎平の3人でのクロストークです。以下、当日の対談の一部をお楽しみください。テーマは「クリエイティビティで社会とつながる」。なお、木田さんのご希望で会場の椅子ではなく「SCRAPTURE」に腰かけてのトークとなりました。

乃村
いかがですか、実際、SCRAPTUREに座っていただいて。

木田さん
座りにくいかな(笑)

乃村、武田
(笑)正直なご感想、ありがとうございます。

木田
最初は普通の椅子を用意してくださったのですが、せっかく皆さんが思いを込めてつくられたものですから、私も座ってみようと。座りにくいとは言いましたけど、廃材が家具の一部となり、しかもインスタレーションになっている。座ったり、寝転んだりもできるし、子供達はきっとこれをすごく楽しむんじゃないかと想像できます。このように、視覚的にも面白く、また体験もできるように設えておられる点は、環境問題を広く皆さんとシェアしていこうとする姿勢の表れですね。とても乃村工藝社さんらしい試みだなと感じました。

乃村
130周年の記念として何かできないかということがまずあり、メンバーでディスカッションを繰り返すうちに日本では産業廃棄物がたくさん出ているという話題が出ました。そういう社会課題を一般の人にも身近に感じてもらうためにファニチャーにできないか? 人々が<ゴミ>と認識するものも、綺麗に封入されることで新しい価値が生まれるんじゃないか? そう考えたのです。展示中、訪れた一般のお客様とお話する機会があったのですが、木田さんがおっしゃった通り、子どもたちは本当に自由に楽しんでくれてましたね。『ふわふわしてるー』とはしゃぎながら大人が思ってもみない使い方をしたり。

トレンドではなく、問いつづける。サステナビリティの現在地

武田
今回、『捨てる→つなげる』という思いをデザイナーとしては表現しないといけなかったのですが、廃材というイメージとはかけ離れたものにしたくて。丸っこくプニプニとチャーミングで、親しみを持てる外見がいいんじゃないかなと考えたんですね。普段の暮らしで実際に廃材を目にする人というのは多くはない。だから『SCRAPTURE』に封入することで実際に見せ、知ってもらうということから始めていけばいい。業界は関係なく、地球に住むみんながサステナブルについて考えるきっかけになることが願いでもありますし、『私たちの未来へ――』という大きなメッセージが伝われば嬉しいです。

ハイブランドが立ち並ぶ表参道の街並みに廃棄の山とメッセージが墨絵のように重なる。「SCRAPTURE」が直感的に訴えかけ、自らを見つめなおすような「間」を意識した展示空間が考えられた。

木田
いま世界中がサステナブルについて真剣に考えている。ですから、今回の乃村工藝社さんのように『こういう問題がありますよ』と可視化するところから始めるのはとてもいい試みですし、できれば『可視化』も毎年進化していっていただきたいなと思います。

乃村
サステナブルは、世界の潮流としては当たり前に考えていくことになっています。ただ、今回のように改めて家具を作って発信すると、『いまさら?』『いままでやってなかったの?』と思われたりするかなと少し不安もあったんですが……

木田
いえ、『いまさら』ではなく、まさに『これから』の問題ですよね。サステナブルは今後ずっと我々にのしかかってくる問題。人々はトレンドを追いかけたがるものだけれど、『去年はサスティナがトレンドだったけど、今年はもう違うよね』と、済ませてしまえるような問題では決してないですから。

サステナブルについて、業界を超えて知見をシェアしていくことが必要

乃村
僕は、サステナブルは『実験し、続けていく』ということが大切だと思うんですね。乃村工藝社としても、いろんな実験を始めたタイミングです。

木田
『SCRAPTURE』の完成に至るまで、『今までの知見だと前へ進めないな』と感じる瞬間は、ありませんでしたか。サステナブルについては、おそらくいまどの業界の方もそんな風に壁にぶつかる瞬間があるように思えるんです。『いままでのやり方で答えが導き出せるような問題じゃない。大変なことだ、これは』という悩みに直面している。私は、デザイナーも建築科もジャーナリストも、空間をつくる人も、それぞれがリサーチプロジェクトをやるしかないと考えているんですよ。そして、その結果を業界を超えてシェアすることが必要。いろんな表現の仕方で、速いスピードでどんどんシェアされていくべきではないでしょうか。

武田
そうですね。廃材を提供してくださった企業さんの中にはすでに廃材を使って何かをしようと企画されている方もいます。そういう人たちをうまく我々がつなぎあわせて、廃材をアップサイクルしていく。乃村工藝社だからこそできることなのかなと考えています。今回このプロジェクトに携わってから、サステナブルやSDGsにおいて今後大切なのは『共創と共存』じゃないかと考えたり……。我々だけじゃなかなか解決できないことが多くあるので、木田さんがおっしゃったように業界の枠を超えて知見を集約させていくのは大切だと感じます。

木田
ハブになるのには、乃村工藝社さんはすごくいい場所にいらっしゃいますよね。こういった試みの中から今後また新しい素材が開発されていくのでしょうし、リサイクル素材から新しい素材がまた生まれてきて……永遠にリサイクルできるシステムを考えるのも素敵なことなんじゃないでしょうか。

武田
一方で、普遍的なデザインを生み出すことができたなら、ずっと愛し続けてもらう事が出来るんじゃないか? 捨てるという行為が生まれてこないんじゃないかな? みたいなことも考えています。デザインの力でモノにそういう永遠の命みたいなものを吹き込めることができたなら、それもサステナブルという観点ではひとつの答えになるのかなと。

木田
長く使う、使い捨てにしない。自分の家の中でスタートできるサステナビリティですよね。そこからさらに広げて、ホスピタリティ空間やオフィスでもそれが意識されれば、新たな効果も出てきそうです。

半径3メートル以内の“自分事”から考えてみる

乃村
美しいやカッコいいって、人が作り出した固定概念みたいなところがあり、『こういうものを作ることが正しい』と型にはめてきた。右へならえ、といった感じで。けれど時代と共にそんな価値観は変わりつつあって、自然本来のもののほうがいいねっていう考えも増えてきている。現に、我々だっていまゴミ(廃材)の上に座っているわけですし。サステナブルに注目した活動をしている方がたくさんいらっしゃるので、今後は新しい価値観で何かコラボレーションしていけたらと考えています。何より大切なのは、やはり活動を継続していくことではないかと。

木田
もっと多くの人がこの問題の重要性に気づくきっかけをつくるためにも、啓蒙活動は本当に大切です。乃村工藝社さんの啓蒙活動は今日がスタート。毎年続けていただきたいですし、続けないと意味がないと思います。

乃村
このプロジェクトが始まった時に、弊社の小川という若手デザイナーが『社会課題について大きなことは考えられないので、まず自分の半径3mぐらいで考えてみました』と話したんですよね。僕、その話がすごく面白いなぁと感じて。自分の身近な問題を少しずつ解決していくということは、結果的に社会全体の問題を解決していくことにつながる。おそらく彼も段々とそう考えるようになり、デザインに取り組んでくれたんだと思います。

木田
それはいいお話ですね。

乃村
それで彼に最近『半径3mから始まった気持ちは、いまどれぐらいになったの?』って聞いたら、『半径10mぐらいになりました』っていうんですね。そういう気持ちの変化みたいなのも含めて、自分事化していくことが大切というか……みんながそういうふうに自分事化して、社会課題に取り組んでいく。そうなると環境問題はもっとよくなるんだろうな。彼の話を聞いてそう感じたんです。

デザイナーの小川直人は現在、自身が携わるクライアントワークでもサステナブルなデザイン提案を積極的におこない空間に取り入れている。

木田
半径3m以内っていうのが、とてもいい。『社会課題って、よっぽど興味ある人だけが取り組んだらいい。興味なければ、取り組まないで楽しく生きていけたらそれでいい』。そう考える時代もあったかもしれませんが、もはやそういうレベルは超えてしまった。見渡すと自分の周りにもプラスチックはじわじわ増殖していて『どうするの?』とメッセージを投げかけてくる。すべては、すでに自分事だということに、気づいてほしいですね。

そう最後にメッセージを送ってくださった木田さん。メモを取りながら聞く聴衆者も見受けられ、木田さんとサステナブルの現在地について話し合うことで、一人一人が自分事として捉え共創しあいながら活動することの重要性を実感することができた時間でした。

「SCRAPTURE」を通じて次のアクションへ

最後に、レセプションや展示期間中に「SCRAPTURE」を体験いただいた方々の声をご紹介します。2024年2月中は乃村工藝社本社オフィスのエントランスに展示していますので、お立ち寄りの際にはぜひご体験ください。

来場者の声「サステナブルマテリアルを使うのは当たり前だけど、それ以前の原材料が見られるのが面白いし、ゴミとは何かを考えさせられる。」

「オフィスにあると気分転換になりそう、意外と座りやすい。」「これがあることで、サステナブルについて会話の糸口になりそう。」など、日常使いやコミュニケーションのきっかけにもなるという意見もありました。

会期中の来場者は半数近くが海外の方で台湾、中国、韓国、シンガポール、アメリカ、ドイツ、ドバイなど多岐に渡りました。「とてもユニーク。クールだけどチャーミングな形がよい。」「廃材を循環させた次のステップにつなげてほしい。」「ドバイも激しくスクラップ&ビルド!共感できるしコラボレーションできるといい。」など、積極的に体験し感想をシェアしてくださいました。

 

「SCRAPTURE」は自社オフィスでの展示から国際会議へと巡回展示し、今回は初の商業施設内カフェという日常での展示となりました。私たち自らが街にでて空間演出を通しメッセージを訴求する、プロジェクトメンバーが毎日直接プレゼンテーションし対話するアウトリーチ活動。一般の方々とはともに未来について話し合い、企業の方々とはともにサステナブル・アクションを考えた10日間でした。現在も複数のプロジェクトが進行中です。

乃村工藝社が社会に開く取り組みの第一歩としてはじまった「SCRAPTURE」。これからも私たちの未来のため、様々な方々と探求・挑戦をつづけていきます。

 

責任者 山口茜、クリエイティブディレクション 乃村隆介、プロジェクト・マネジメント 井部玲子、デザインディレクション・展示構成 武田慎平、展示グラフィック 小阪雄造、廃材ディレクション・パンフレット制作:亀田奈緒、アート家具・パンフレット映像制作 小川直人、映像ディレクション 上杉信介、プロダクトディレクション責任者 日野潤平、プロダクトディレクション 能勢楓、広報 岡村有希子

文:源 祥子
写真:宇佐美 亮・大崎衛門(ナカサ&パートナーズ)
企画:岡村 有希子(ブランドコミュニケーション部)・井部 玲子(未来創造研究所)
編集:横田 智子(ノムログ編集部)

素材提供・巡回展示・コラボレーションなどご興味がある方は、ぜひSCRAPTURE@nomura-g.jpまでお問合せください。
関連リンク:本出展リリース・ティザームービー

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“空間と体験”を追求するチーム
プロの目線で“空間と体験”の可能性を切り取ります

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