店舗体験のニューノーマルについて考える

野田 裕暉
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野田 裕暉

非常事態宣言が解除されてもうすぐ1か月。

商業施設や店舗では営業再開と共に様々な施策を行いながら、新しい生活様式にあわせた商業空間づくりを進めています。

「徐々に見えはじめた未来」から「まだ見えない少し先の未来へ」。

今回は新型コロナウイルスが「収束」ではなく「終息」する社会を見据えて、中長期的な視点から店舗体験のニューノーマルについて考察してみたいと思います。

デジタルシフトする商業空間

非常事態宣言下では商業施設や店舗等のリアルの売上が落ち込む一方で、EC等のデジタルの売上は好調に推移しました。

商業分野では近年、リアルからデジタルへのシフトが注目を集めていましたが、今回のコロナ禍で商業施設や店舗が営業自粛になる中で、その傾向が加速的に広まったように感じます。その他にもサブスクリプションサービス、D2C(Direct to Consumer)、二次流通サービス等、デジタル技術の進歩によって、これからも新しいサービスが続々と誕生することでしょう。

私は入社以来、商業施設や店舗等の企画・開発案件を中心に担当し、クライアントと共に5年先・10年先の商業空間について様々なアイデアを考えてきました。その中から今回は2018年にNTTデータさんとの協業で作成した業態プロトタイプ映像“Our Closet”についてご紹介したいと思います。

この映像はリアル店舗での購買体験をベースに、サブスクリプションモデルやデジタル技術を組み合わせた新しい顧客体験について描いたものです。

当時はシンプルに、リアルとデジタルの融合が未来の商業空間のテーマになると考えていました。

しかし今回の新型コロナウイルスは、「集客」という空間ビジネスのベースとなる考え方を根本から大きく変えてしまったように感じます。そこで、新型コロナウイルスが商業空間にもたらした変化について、もう少し細かく見ていきたいと思います。

フィジカルディスタンス(身体的距離)の変化

非常事態宣言が解除され、経済活動が再開される中で店舗や商業施設では新型コロナウイルスの流行によって失われた集客力を取り戻すべく、様々な対策・対応に取り組んでいます。

例えば、
・レジ前にできる行列の間隔を空ける
・エスカレーターの間隔を空ける
・隣接するトイレの便器を使用できないようにする
・エレベーター内の床面に立ち位置マークを貼る

このような取り組みからもわかるように、新型コロナウイルス終息後の社会では他者とのフィジカルディスタンス(身体的距離)の考え方が大きく変わるといわれています。それに伴い、店舗体験としては混在の防止(店舗内の人口密度を制限すること)と、その環境下ならではの新しい体験価値を提供することにこれからの可能性があるのではないでしょうか。

そこで今回は先ほどご紹介した【Our Closet】でも取り上げたアパレルのリアル店舗をモデルに、店舗内の人口密度を制限するための「集客」「動線」の2つのアプローチから店舗体験のニューノーマルについて考察してみたいと思います。

↑イラスト / 今までのアパレル店舗の空間イメージ

考察1_集客をコントロール

1つ目は集客をコントロールするという考え方です。
集客制限と共に高い付加価値体験を提供するラウンジ体験を付随させるのはどうでしょうか。予約制やチケット制を導入して集客をコントロールすると共に、店舗ならではの商品の試着・接客体験をお客様1人1人にパーソナライズされたカタチで提供したり、飲食やアミューズメント等の機能を複合させることで、リアル店舗ならではの店舗体験の質を高めることができそうです。

↑イラスト / 「集客をコントロールする」をテーマにした店舗の空間イメージ

集客が制限されることで、お客様のストレス低減だけでなく来店すること自体に特別感が生まれてブランディング・プロモーションにも効果を発揮するでしょう。

また、集客制限の可能性として例えば平日は完全予約制、休日は通常営業といった二重の営業形態にしたり、1日の中で決められた時間はライブ配信専用のスタジオとして利用する等、時間帯で店舗の使い方を分けることで1つの店舗が様々な役割を担うマルチタスク型の店舗運営ができるかもしれません。

ニューヨークには、ディナー営業のレストランが営業前の時間帯に限ってコワーキングスペースとして利用できるようにするサービスがあります。1つの空間が複数の機能を持つというアイデアは空間ビジネスの新しい可能性になると思います。

考察2_動線をコントロール

2つ目は店内でのお客様の動線をコントロールするという考え方です。
通常では入退店を一箇所にまとめている店舗の入口と出口を分けて、強制動線や半強制動線を採用することで店内でのお客様の動きをゆるやかにコントロールすることができます。

↑イラスト / 「動線をコントロールする」をテーマにした店舗の空間イメージ

店舗の役割が購買の場からブランドとのつながりをつくる場へと変わる流れを踏まえると、動線をコントロールすることはテーマパークのアトラクションのように体験ストーリーを順序通りかつ強弱をつけて訴求できることにも活かせそうです。

デジタルデバイスでは表現できないスケール感や演出効果等の様々な仕掛けによって、五感を刺激する体感型のブランド体験を提供することができます。例えば、入口専用のエントランスを設けることでエアシャワー等の消毒や検温等の対応をスムーズにできると共に、光や香り等の演出効果を持たせてエンタメ化することでブランドらしさを印象付ける体験へと昇華できるかもしれません。

もう少し店舗の概念を拡大させると、イタリアで生まれた宿泊機能を街に分散させるアルベルゴ・ディフーゾ(直訳すると「分散したホテル」)のように、店舗機能を分解し街に分散させることで、街を巡りながらブランドを体感するという店舗の考え方もできると思います。

店舗体験のニューノーマルについて

今後ますますリアルとデジタルが融合し、新しい生活様式が定着する新型コロナウイルス「終息」後の社会。

店舗体験のニューノーマルとは、コロナ禍による身体への距離感の変化をポジティブに捉えて、店舗ならではの体験価値を磨き上げた店舗体験のことだと思います。そしてそれは、今まで私たちが当たり前だと思っていた店舗の在り方の既成概念が取り払われることで、店舗のブランドや業態の数だけ店舗体験のバリエーションがうまれることではないでしょうか。

ここまで店舗体験のニューノーマルについて自由に考察してきましたが、最後にニューノーマルな店舗体験の実現に向けた課題について少しだけ触れてみたいと思います。

リアルとデジタルの融合は今後も進んでいきます。その中で一般消費者とつながるチャネルとしてこれからもリアル店舗が選ばれ続けるためには、今までのモノを売るという機能ではない新しいリアルな空間の有用性を新しい評価指標で見える化する必要性があると感じます。

ExB Design Farm(通称:エックスビー)発足しました!

そこで「空間体験の価値を再定義&発明する」をビジョンに、それぞれ異なる得意分野を持つ4名のメンバーが有志で集まり、社内チームが任意発足しました。今後は先駆者や挑戦者へのインタビューや自らによるアイデアの発信を通じて、これからの時代に求められる空間体験における新しい価値を発明していきたいと思います。

メンバーは写真左から、梶村直美、阿部鷹仁、野田裕暉、山田知佳。本記事は、野田裕暉が担当。

過去の記事はこちら

実空間に秘められた可能性って何だろう?(前編)

最後までお読み頂きありがとうございました。

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