NFT×空間で新たな体験価値の創出へ。空間創造企業が挑むNFTプロジェクト

榊 遼平
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榊 遼平

1: そもそもNFTとは?

NFT(Non-Fungible Token)は、アートや音楽、ゲームアイテムなどのデジタルデータにブロックチェーン上で所有証明書を記録し、それが唯一無二であることを証明できる技術です。

NFTは2021年頃にNFTアートが日本円で75億円相当の高額で取引されたこと等をキッカケに、瞬く間に多くの注目を集めました。そこからNFTと言えばNFTアートのイメージが強いかもしれませんが、実はNFTはそれだけではありません。

NFTの持つ特長(=デジタルデータが唯一無二であることの証明 等)は非常に汎用性が高く、その特徴を活用して既に多方面で活用が始まっています。例えば複合的な価値を持たせたイベントチケット(事例①)や、地域の関係人口増加を目的としたデジタル住民票(事例②) 等々、その使われ方も様々です。

事例①イベントチケット:レコチョクチケット(株式会社レコチョク)

引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001542.000002747.html

チケットそのものがNFT化されており、紙チケットのように所有でき、電子チケットのように扱うことができる。イベントの入場券としての機能はもちろん、イベント終了後の所有者限定の体験の提供や、イベント参加の証として半永久的に保管すること等が可能となっている。
公式HP:https://recochoku.jp/ch/web3/nft-ticket/

本事例では、NFT化されたチケットが従来のチケッティング機能以上に価値を発揮し、参加証明や所有者限定体験といった様々な付加価値を利用者に提供しています。NFTと掛け合わせられるデジタルデータの幅は非常に広いことから、従来のシステムの一部をNFT化することによる新たな体験価値の創出には、今後も進化の余地が多分にあると考えられます。

事例②デジタル住民票: Nishikigoi NFT(新潟県山古志村)
人口800人以下の限界集落と言われている山古志村が、デジタル空間も含めた関係人口の増加を目指して発足したプロジェクト。発行するNFTを保有することで、山古志村のデジタル村民となることができます。

“本NFTは、錦鯉をモチーフとしたデジタルアートのNFTであると同時に、「デジタル住民票」という意味合いも兼ね備えています。なお、本NFTプロジェクトは新潟県長岡市公認のNFTプロジェクトです。
山古志というアイデンティティを残すために、定住人口にとらわれないデジタル空間を含んだ関係人口の増加を目指しております。「デジタル村民」という概念を生み出し、デジタルアートのNFTによってこれを流通することで、国内だけではなく、地域への関わり方を世界に開放し、多くの人々との出会いを生み出そうとしています。“
公式HP:https://nishikigoinft.com/ja

2: NFTを使って、もっと空間を面白くできないか?

“もしかしたら、NFTを活用しうまく実空間と掛け合わせることで、空間の新たな体験価値を創出することができるのではないか。空間デザインに強みのある乃村工藝社だからこそできる新たな可能性を探れないか”
そのような気づきから、乃村工藝社ではNFT×空間をテーマに研究開発を行うタスクフォースチームを組み、プロジェクト化への取り組みをはじめました。ちなみに私もそのメンバーの一人です。そこで本記事では、乃村工藝社の描くNFTを用いた新たな体験の創出の可能性とそれに向けたトライアルについてお伝えしていきたいと思います。

3: NFTを活用した、新たな体験価値の創造

それでは、NFTによってどう新たな体験価値を創造するのか、以下3つのステップに分けて考えてみたいと思います。
その汎用性の高さから、NFTにより体験価値を高めうる空間は多く考えられますが、今回はその例として、空間=日本酒の酒蔵、空間での体験=醸造体験と仮定して考えを膨らませてみました。
NFTを手段として活用する場合は、扱うコンテンツ自体の魅力が大きい(=ファンが多く熱量が高い)ほど相性がよく、力を発揮することができます。そこで、1つの空間(酒蔵)に対して全国にそのコンテンツ(日本酒)のファンがいるケースとして酒蔵での醸造体験を例にしています。

ステップ1:空間体験の前後の体験の創出

空間はもちろんその場を実際に訪れなければ体験できませんが、NFTによる体験をその前後につくることで、空間への期待感を高めたり、リピートを促進させるような取り組みが可能となります。
空間を訪れる前の期待感の醸成:空間を訪れる前にNFT化された参加チケットや限定コンテンツを配信することで、リアル空間に実際に訪れる前のワクワク感を、NFTによってつくることができるかもしれません。
空間を訪れた後のリピートの促進:参加チケットがNFT化されていると、例えばその人がいつどこでどんな体験をしたのかといった情報を個人単位で紐づけることができます。そのため、例えば酒蔵での試飲などの情報をストックしておけば、個人の好みにピッタリの日本酒を後から届けるといった顧客満足度の高いサービスも可能であり、魅力的なリピート促進の体験をつくることができるでしょう。

ステップ2:空間における体験の拡張

空間自体も、NFTによってもっと魅力的に体験を拡張させることができると考えています。
体験のリワード・次の体験の誘発:例えば、空間での体験ごとにNFTをゲットできる、つまり体験のリワード(報酬)としてNFTを付与することが可能です。NFTを獲得する体験をまるでスタンプラリーのようにコレクション性のあるものにしていけば、「もっとNFTを集めたい!コンプリートしたい」といった気持ちが生まれ、さらなる体験の誘発に繋げることができるのではないでしょうか。
事例:大阪環状線NFT駅スタンプラリー(西日本旅客鉄道株式会社)


引用: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000074.000046288.html

大阪環状線・JR ゆめ咲線の大阪・関西万博ラッピング列車の運行開始に合わせて実施された、万博の機運醸成の一環としてのキャンペーン。大阪・関西万博ラッピング列車の中や沿線の駅に設置されたQRコードを読み取ることで、NFT化された駅スタンプを獲得することができる。各スタンプは多種多様なイラストレーターによって描かれており、スタンプの獲得箇所を巡り歩きコレクションしたくなるデザインとなっている。
公式HP:https://www.jr-odekake.net/navi/nft-stamprally/

会員ステータス機能・特別感の演出:前述のようにNFTは個人単位で様々な情報を紐づけることが可能です。そのため、NFTの保持数や保有期間などによってステータスを振り分けることができます。例えば、どれだけ空間に訪れたか(酒蔵を訪れたか)、何をどれだけ体験したか(醸造体験や試飲、お土産の購入など)などからフレキシブルにステータスを定めることが可能です。これによりステータス(=空間へのエンゲージメント)の高いお客様へ向けた特別なVIPイベントも開催することも可能となります。

ステップ3:空間を核としたネットワーク

空間を核とした、NFT保有者のネットワークを築くことも可能です。
コミュニティの創出:従来のSNS等のオンライン上でも空間に対するコミュニティはありますが、一方でNFTが介在することにより空間に対するエンゲージメントを可視化することができるため、保有者同士のコミュニティではより熱量の高いファン同士で繋がることができます。
プロジェクトの発足:NFTを活用することで、クラウドファンディングのようにプロジェクトの参加者から資金を募り、その参加者同士でプロジェクトの運営方針を決めていくようなスキームを構築することも可能です。クラウドファンディングとの違いは、NFTの保有数(=例えばプロジェクトへどれだけ資金提供したか)に応じて投票権を与えることができることです。例えば、酒蔵で来期につくる日本酒の味を、その酒蔵が発行するNFTの保有者(ファン同士)で決めていくことも可能となります。その酒蔵の良さを理解している人(より多くのNFTを保有している人)の意見をより尊重したプロジェクト推進も可能となります。
ちなみに、(ざっくり分類すると)このようにトップダウンでなく非中央集権的にコミュニティ全体で意思決定を行い、プロジェクトを推進する組織をDAO(ダオ)と呼びます。

※DAO……Decentralized Autonomous Organization(分散型自律組織)の略

このように、空間の体験価値はNFTにより多くの進化の可能性を秘めており、空間体験のプロフェッショナル集団である乃村工藝社として、その可能性にチャレンジしない手はないと思っています。
乃村工藝社の業務範囲は主に空間体験のデザインですが、これからは「空間体験+NFTによって拡張される体験」の全体を企画する総合プロデューサーを目指していきたいと考えます。つまりは空間を体験するもっと前から、そしてその後のコミュニティ創出までを含めて一連の体験フローを空間と合わせてプランニングし、お客様にとってもっと空間の体験価値が高まるような、新たな体験の可能性を探っていくことが目標です。

4:最初の一歩!NFTグラフィック販売


※NFT化された130種類の「お花」グラフィックの一部

さて乃村工藝社では、NFT分野での自社での取り組みの最初の一歩として、2023年7月から自社のNFTグラフィック作品の販売を始めました。乃村工藝社創業130周年を記念に制作した、130種類の「お花」グラフィックをNFT化しており、Adam byGMOの乃村工藝社のストアにて出品しています。

Adam byGMO 乃村工藝社のストアページ(外部サイトへのリンク)
https://adam.jp/stores/nft_nomura-g_jp

<乃村工藝社創業130周年を記念した「お花」グラフィックについて>
コンセプト:「ありがとうの花束を」
私たちは空間を通して社会に様々な「しあわせの種」をまき続けてきました。開花した個性あふれる色とりどりの花々で、これまで支えてくださったお客様や世界中の皆さまに、「ありがとう」の感謝の気持ちを伝えます。
 キービジュアルおよび周年ロゴマーク展開のひとつとして、乃村工藝社グループ社員の名刺をリニューアルいたしました。130周年にちなみ、多様な個性を表現する130種類の花のデザインを裏面に施しています。デザインは当社のビジュアルデザインチーム「IVD」が担当しました。

https://www.nomurakougei.co.jp/news/page/4351/
IVD公式instagram
https://www.instagram.com/ivd_official/

トピック:アート部門で1位を獲得!
2023年7月に販売を開始し、2023年9月にはアート部門にて売り上げ月間1位を獲得しました!SNSを活用したプロモーション施策等も功を奏したのかと思います。

NFTによる新たな空間体験の創造を目指しそれを世の中に実装していくにあたり、最も大切なのはスピーディーなトライ&エラーであると感じました。なぜなら、デジタル領域における技術の進歩は目覚ましく、腰を据えて長期的な計画のもとに着実に遂行していくのではなく、試行錯誤を前提としてフットワーク軽くまずやってみる、くらいの姿勢でなければ、流れに取り残されてしまうからです。

NFTはまだまだ発展途上であり、その可能性は無限に広がっていると思います。乃村工藝社はこれからもNFTを活用した新たな空間体験の拡張について模索を続けてまいります。

一緒に新しい・面白い体験創造にチャレンジしたい皆様、ご連絡お待ちしております!

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榊 遼平

榊 遼平

ドリーミングプランナー
夢だった空間を、今日つくるんだ

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