在宅勤務から“ポストコロナ”の集客空間を考える

高野 次郎
高野 次郎
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高野 次郎

はじめに

新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を奮っています。まずは皆様のご安全と、発症された方々の1日も早いご回復をお祈りします。そして亡くなられた方々には心からお悔やみを申し上げたいと思います。

先日の緊急事態宣言や自治体の要請を受けて、わたしも必要な食材や日用品の買い出し以外は外に出ない日々が続いています。部屋の窓から暖かな日差しが降り注ぐ閑散とした公園を眺めながら、生まれてからずっと当たり前だと思っていた日常が、これほどのスピードで崩れ去るものなのかと驚いています。その一方で、遅々として進まないように見えた、主に技術革新を起点とした社会変革が否応なしに起きていることも事実です。

移動しなくても、実際に顔を合わせなくても仕事を進められる技術は既に存在していたのですが、日本は都市圏に人口が集中し交通網も発達しているため「行って会った方が早い」と考える人が多かったのではないでしょうか?ところが状況は一変、家から一歩も出られないとなると、会わなくても仕事が進められる技術を導入し、習得しなければなりません。技術の進歩というよりも、ユーザがかつてない速さで進歩していると言えます。

この文章は「在宅勤務とテレワークによって得た新たな気づき」と、それを起点に考察した「“ポストコロナ”の集客空間予測」という2つに構成されています。テレワークについては既に様々なメディアで気付きが共有されているので、お時間のない方は後半の「“ポストコロナ”の空間はさらに便利で快適に?」から読み始めても問題のない内容になっています。一人でも多くの方にお読みいただけますと幸いです。

在宅勤務推奨がもたらしたデジタル化の加速

例えばテレワーク、特にWeb会議がこれほどまでに短時間に普及するとは誰が予想したでしょうか?わたしの部署もMicrosoft Teamsのチャンネルを活用して始業、終業の報告を共有していますが、まるで職場で挨拶をしているような感覚で孤独感が和らぎます。わたしは20代の後半、フリーランスとして自宅のワンルームのアパートで仕事をしていたことがありますが、朝はいつまでも眠いし、夜はダラダラと仕事を続けてしまう…と、ひとりで仕事をすることの難しさを感じていたので、協力的に毎朝毎晩続けてくれているチームの皆さんに感謝しつつ、“オンライン挨拶”の有用性を感じています。

ありがたいことに、空間に関する業務も途切れることなくいただけています。企画書づくりも、MicrosoftのSharePointにより、Power Pointのファイルを離れたところから複数人で同時に編集できます。Web会議でスライドごとに担当者を決めてタスクを割り振り、後は各自で編集し、またWeb会議で確認する…という流れで進めていきます。他の人の作業状況や内容を確認しながら進められるのが良いですね。昨年から海外支店と業務を進める際に使用していましたが、これによってWeb会議だけで非常に効率的に資料の作成ができるようになりました。ところで、資料のペーパーレスもさらに加速してくと思うのですが、「企画書」という呼び方もいつか変わるのでしょうか?

リアル会議では「なんとなく始まって、なんとなく進めて…」が珍しくありませんでしたが、Web会議でそれをやると全員が沈黙する時間が増えていく傾向があります。在宅勤務を始めて数週間経ちましたが、Web会議では「冒頭に議題を共有して順番に進めていき、最後にタスクと担当者を確認して次回の打ち合わせを決める」という流れで進める人が増えてきているように感じます。これも好ましい変革だと言えるのではないでしょうか。

利用者の急拡大とセキュリティ対策で話題のWeb会議システムZoomは、3人以上の会議でも40分までは無料で使用できます。1時間のWeb会議をやる場合「40分でいったん切って、またつなげて…」とやっていたのですが、ある時、思い切ってこれまで1時間かけていた会議を40分で終わらせることにしました。すると、残りの20分は家の中を歩いたりストレッチをしたり、次の会議の準備をすることでその後の会議にも集中できる、といった好循環が生まれることがわかりました。

最近では、空いた時間の雑談にWeb会議システムを使うことも増えてきているようです。雑談や社内を歩いて移動することなど、オフィスでは生産的とみなされていなかった行動が、人間性を維持するために必要不可欠であることが可視化されています。

“ポストコロナ”の空間はさらに便利で快適に?

とはいえ、このまま一生ずっと家で過ごす人生は少なくともわたしにとっては望ましいものとは言えません。この生活がいつまで続くのか、いつ事態は終息するのかは専門家の意見を仰ぐことにして、“空間の価値を真面目に考えるノムログ”としては、事態が収束した時に、人が集まる空間がどうなるのか、3つのポイントから予測したいと思います。

#1. 多少のことは屋外でおこなう

感染者の行動履歴をモバイルデバイスを用いて追跡する技術は社会の要請により普及していくでしょう。空港で行われているようなセンサーによる検温は各施設の入り口に普通に設置されるものになるかもしれません。また、自動ドアのようなセンサリングインターフェースと音声インターフェースは「気が付けばそこら中に普及している」という状態(タッチレス社会とでも呼びましょうか)になるでしょう。これまでは時間と吸気/排気量から数値を算出していた換気量も、施設内のどこをどれくらいの空気が流れていくかなどのシミュレータは既に実現されており、普及が加速するでしょう。予想される来場者数に合わせてテーブルや椅子の配置を変化させ、ソーシャルディスタンシングが確保できるかどうかをシミュレートできるプログラムなども普及が進みそうですね。

短期的には「人を呼ぶのなら屋内よりも屋外」という流れになることが予想されます。換気もソーシャルディスタンシングも確保しやすいからです。音楽系のイベントでいうと、アリーナ開催よりも野外フェスの方が復活は早いのではないでしょうか。青空教室なんて言葉もポジティブに復活するかもしれません。もちろん真夏や真冬、台風の時期など、常に屋外ばかりという訳にもいきませんが、屋外が有効に活用される分、屋内をゆったりと使うことができ、より快適な空間が増えていくのではないでしょうか。利用可能な空間をネットワーキングして有効活用できるサービスの利用が進み、社会から「デッドスペース」が少なくなっていくと思われます。一方で、ポスト・コロナの社会ではこれまで外出してやっていたことを家でやる人は一定数残るでしょうから、最終的には屋外でも屋内でも「リアル空間が必要不可欠な体験は何なのか?」という問いに帰結します。これはまさに現在の「家にいなければならない時間」が長引けば長引くほど、多様な回答が様々なところから出てくる気がしています。

#2. 待つ時間のなくなる「分散集客」

感染リスクが限りなくゼロに近づくまでは、密集・密閉・密接をはじめ外出そのものをリスクとみなす社会はしばらくの間、継続するのではないでしょうか。外出への心理的なハードルが上がるので、できるだけ「外出時の無駄な時間」をそぎ落としていく必要があります。そこで期待されるのは「待つ必要のない、並ぶ必要のない社会」です。例えば大型のイベントやテーマパークに行って、滞在時間のほとんどを並ぶ時間に費やした経験のある方は多いと思います。弊社のある人気デザイナーは、2010年に開催された上海万博のサウジアラビア館に入るのに8時間並んだそうです。閑散としたイベントやテーマパークは気分が盛り上がらないものですが、それなりに人で賑わう空間で「乗りたいアトラクションに、すっと乗れる」「ご飯を食べたい時に、すっと座れて食べられる」というのは最高の体験ではないでしょうか?

オンラインでの事前予約や購入したチケットのランクによって並ばずにアトラクションに入れるような仕組みは普及が加速することが予想されます。さらに、イベントやパーク全体の来場者分布と動きのベクトルをカメラやセンサーで追跡・分析し、各来場者が持つスマートデバイスに、食事を取りたい時間や人数、今日絶対に乗りたいアトラクションなどを反映した「移動を促す情報」をタイムリーに配信し、パーク全体としては分散化と平準化を促進する、と言ったビッグデータ解析を使った仕組み(分散集客とでも言うのでしょうか)が普及することも予想されます。

#3. 会場でも家でもない場所と通信・表示技術の複合がカギ

これまでのような、ひとりでも多くの人を会場に詰め込むということは当分の間は難しくなるでしょう。人気スポーツイベントの決勝戦や人気アーティストのライブ入場料は高騰し、超超VIP席の設置も進むでしょう。ライブエンターテイメントに関しては、ネット視聴者の増加による市場の拡大によって、VRをはじめとした配信コンテンツのリッチ化が起こることが予想されます。一緒に会場に行くのではなく、離れた場所にいる友達と配信コンテンツを一緒に楽しめるような仕組みが普及すると、会場と家の中間であるサテライト会場での新しい楽しみ方が出現するでしょう。1950年代、テレビの普及のために街頭にテレビが設置され、プロレスやボクシングの試合を集まって観戦していたそうです。それが大型ビジョンやライブ中継技術の発達でパブリックビューイングというイベントに進化しました。現在起こっているWeb会議の急速な一般化と5G技術やXR技術の活用が相まって、例えば立体映像のアーティストが世界中の公園に同時に出現するようなフェスや、eSPORTSをスポーツジムで観戦し、試合の展開によってトレーニングマシンの負荷が変わるといった、まったく新しいイベントの体験方法が誕生するかもしれません。社会変革によるコミュニケーション形態の変化が、従来では想像できなかった感動体験を生み出すことが期待されます。

最後に

家族や友人、あるいは同僚と同じ空間で同じものを見て、感情を共有できた以前の日常がなんと素晴らしいものだったのかを痛感する毎日ですが、今は事態が必ず終息すると信じて家の中で大人しくすることしかできません。失ってはじめて気づく空間の価値に対する気付きを書き留めて、ポストコロナの社会ではより魅力的で価値のある空間をみなさんと一緒に考え、実現することが楽しみで仕方ありません。

以前、NTTデータさんとの協業で作成した業態プロトタイプ映像“Our closet”は、ネット通販が加速するアパレル市場において「リアルな店舗で服を選ぶ楽しさとはいったい何なのだろう」という問いを突き詰めて考えることで誕生しました。この動画の最後は、以下のようなメッセージで締めくくられます。「みんなとでかけるのが楽しいから、わたしの未来はいつまでも楽しい」。在宅をする中で生まれた良い変革は残しつつ、この状況が一日も早く終息し、また家族や友人達と楽しく外出できる日々が戻ってくることを願ってやみません。

最後まで読んでいただきありがとうございました。いつの日か、リアルの空間でお会いしたいと思います。それまでの間、どうかご安全に!

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高野 次郎

高野 次郎

初代ノムログ編集長/NOMLAB ディレクター
これからもずっと、空間のことを考え続けます。

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