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メタバース×リアル
体験づくりの可能性
フォトアート展示会
を事例に語り合う

ノムログ編集部
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ノムログ編集部

乃村工藝社グループ社員がさまざまな分野で活躍する有識者と出会い、これからの“空間”や“体験”の可能性を語る対談シリーズ[nomlog MEETS→]をスタートします。

今回のテーマは「メタバース×リアルの体験づくり」。メタバースを活用した空間・体験創造の可能性を考える乃村工藝社グループのチームが、アートとメタバースをかけ合わせた取組みに挑戦するフォトアーティストの元を訪れます。アートと空間、それぞれの視点から見えてくるメタバースとリアルを併用した体験の可能性とは?

 


nomlog MEETS→
池谷友秀さん(任意団体icon主宰/アーティスト)

アーティスト同士のコミュニティづくりを目的とした「任意団体icon」を立ち上げ、昨年メタバース空間とリアルの展示空間をかけ合わせたフォトアート展『icon CONTEMPORARY PHOTOGRAPHY Ⅱ』を主催。自身もフォトアーティストでありながら、アート市場の活性に力を注いでいる。
https://tomohide-ikeya.com/


<座談会メンバー>

右から:
乃村工藝社 山﨑 聡(ビジネスプロデュース本部)、岡本 悠雅(兼 未来創造研究所)
任意団体icon 池谷友秀さん、鈴木萌子さん
乃村工藝社 山田 航太、小坂 開(ビジネスプロデュース本部)
*コンテンツ企画・撮影:小椋 瑞希(ビジネスプロデュース本部)
*コンテンツ企画・執筆:横田 智子(ノムログ編集部)

日本のフォトアートを世界レベルへ

山﨑
私たちはこれまで多くのリアル空間を創造してきた経験を活かして、メタバースやNFTといった新しい概念を空間づくりに取り入れ、リアルとメタバースをかけ合わせることで新しい体験価値づくりをしていきたいと考えています。これからさまざまな方とのコラボレーションや、自社のコミュニケーションスペース「RE/SP 2」をメタバース化するなど、さまざまな取組みを行っていく予定です。今日はよろしくお願いします。

岡本
池谷さんはフォトアート展をメタバース空間も併用されて実施されたご実績があり、リアルやメタバース問わず、私たちが空間創造する際に大切にしている“体験づくり”の視点で共感できることが沢山あるのでは、と感じて今回の機会をいただきました。まずは「任意団体icon」を立ち上げたきっかけを教えてください。

池谷さん
iconはSNSを活用してさまざまなアーティストにインタビューしたり、展示会などを紹介したり、文化芸術に関することを発信するメディア活動です。立ち上げたきっかけは、ギャラリーで展示会を開いても、鑑賞者やアーティストが訪れる時間はバラバラで、滞在する時間が微妙にずれることで、双方にコミュニケーションが生まれないことに課題を感じていました。

そこで、まずはYouTubeでアーティストへのインタビュー映像を発信することから始めました。そのうちアーティスト同士のコミュニケーションの場として『artPotluck』を開催するようになり、今ではアーティストたちが意見交換したり、お互いに自分たちの作品をPRしたり、と良い機会になっています。そこから発展して2021年からコンテンポラリーフォトに特化した展示を企画しました。

iconの大きなビジョンは“日本のフォトアートのレベルを向上させる”ことです。日本のフォトアートは、レベルは高いのですが、評価が低い。特にSNSの存在によって写真自体の評価=価格は下がってきている状況です。さらに日本のフォトアート展示(写真展)は若手支援が目的で、作品を販売している所が少なく、作品を見てもらえる機会があっても、買ってもらえないとアーティストが育たないのです。

さらに広告を制作する時、日本では「どのタレントを起用するか」という視点ですが、海外では「どのフォトグラファーを起用するか」を考える。重視するポイントが全く違います。私たちはiconでの取組みを通じて、フォトアーティストの地位を向上させ、業界全体を海外市場のようにシフトさせていきたいという想いが根底にあります。今後は海外のアートフェアにも出展していきたいですね。

メタバース空間を取り入れるメリットとは?

岡本
素晴らしいビジョンと活動ですね。それでは初めてメタバース空間を取り入れた、昨年の展示会『icon CONTEMPORARY PHOTOGRAPHY Ⅱ』について教えてください。

池谷さん
2022年9月に4日間のリアル空間での写真展を主催しまして、その1か月前からメタバース空間をオープンし、出展アーティストによるトークイベントを仕掛けていきました。開催予定の2ヶ月前に助成金が下りることが決まったところから、コンテンポラリーフォトで活躍しているアーティストたちに参加の声をかけ始めて、そこからメタバース空間を制作して、作品販売の手順を準備して…と駆け抜けるような日々でした。

2022年『icon CONTEMPORARY PHOTOGRAPHY Ⅱ』リアル会場とメタバース空間の様子

メタバース空間のメリットは、柔軟性があり、場所を借りる必要がないのでコストが削減でき、データ収集ができる点ですね。プレビューとしての役割を果たせることが大きなメリットです。まず「行きたい!」と思わせるワクワク感をメタバース空間でつくり、あらかじめトークイベントを仕掛けた上で、リアルな空間に誘引する。

リアル空間での展示はコストがかかるため短期間での開催になりがちですが、事前につくられたメタバース空間では、長期的に集客できることが魅力です。遠方に住んでいてリアルな展示空間には来られなくても、メタバース空間には何度も来てくださる方もいました。

岡本
リアル空間とメタバース空間で、意図的に何かを変えたこと、自然と変わったことはありますか?

池谷さん
メタバース空間は最初、リアルの展示空間と同じ間取りでつくってみましたが、試行錯誤の結果、あえて変えてみました。本当の展示空間とは見え方が全然違う方が、メタバース感があって面白いと感じたからです。“大きさ”も面白い要素でした。出展作品の中にとても小さな作品があったのですが、メタバース空間でスケールを変えて大きく展示してみたら、とても魅力的に見えたんです。

岡本
気軽にスケールを変えられるのは魅力ですね。

池谷さん
他にもアーティスト自身がアバターになってメタバース内に入り、小人のように小さくなって作品をつくって、それをリアル空間に展示してみました。「作品の中に入って制作できる」というのは、リアルな世界では不可能ですよね。まるで映画のような世界観ができたと感じました。

岡本
メタバースの世界は、ちょっと飛んでいるくらいの方が面白いですよね。

池谷さん
リアルな空間をそのままメタバース化すると、どうしても二流品に見えてしまって。メタバース上では自由な間取りができるので、例えば天井を取ってしまったり、海を入れてみたり、背景をタイマーで変えてみたり…と、いろいろ試していると楽しくて。リアル空間のように「この日からオープン」と区切る必要がないので、ゆるゆると始めて、事前にシミュレーションができたり、徐々に更新していけるところも魅力です。

さらにひとつの目線(カメラ)で発信されるインスタライブ等と違って、メタバース空間はいろいろな角度で会場を覗くことができ、人によって作品の受け取り方が変わるところが面白いですね。トークイベントで盛り上がった時に、話題に挙がった過去の作品をすぐにメタバース空間に追加できたり、観客が拍手などで感情を表すことができたので、双方向での盛り上がりが見えたところも良かったです。

メタバース×リアル、それぞれの役割と相乗効果

山﨑
事前プロモーションとしてのメタバース空間という視点はとても面白いですね。一方でリアル空間では「本物の作品を自分の目で鑑賞できる」=「そこでしかできない価値ある体験」があって…メタバース空間とリアル空間をとても上手に使われているな、という印象があります。

池谷さん
ここ最近では、「1点もの」=「モニターでは表現できないもの」の価値がぐっと上がってきています。メタバース上で期待感を演出して、リアルで“モニターを超える作品”を直に体感する。両方の世界が揃うことで、総合的に作品販売につなげていけたらと思っています。

山﨑
日本でももっとフォトアートを飾る文化があると良いですよね。

池谷さん
本気でフォトアートが好きな人、気軽にフォトアートを楽しむ人、両方いて良いと思います。例えば音楽の「サブスクで聴き放題」という状況からアーティストへの還元は減っていても、利用料金の安さでユーザーはどんどん増えますし、リアルの価値が高まってライブの入場料は以前と比べて上がっていますよね。絵画や写真も、いずれそうなる流れが来るのではないかと思っています。

山﨑
そういう風に気軽に楽しめる文化をつくれるのは、メタバースやNFTの世界ですよね。メタバース上では、世界観を通じたファンづくり。そしてリアル空間で、本質的な価値づくりをする。両輪が大切なんでしょうね。

岡本
確かに、メタバース上ではそこでの体験を通じて“期待感の醸成”につなげることができますね。リアル空間での展示中も、継続してメタバースの世界とコミュニケーションが取れると面白そうですね。池谷さんが展示の手法で意識していることは何でしょうか?

池谷さん
肝は先ほどお話したスケール感、そして映像だと思っています。よく美術館で長めの映像がループ再生していることがありますが、来たタイミングによっては最初に戻るまで待たなければならなかったり、ビデオアートは暗室での展示になるので他の展示空間とは切り離された別世界になってしまったり…。

そこでメタバース空間に置かれたモニターにメディウム*を塗り、自分の作品映像を再生するオリジナルのフォトフレームをつくりました。「これなら映像作品もインスタレーションとして成立する」と納得することができました。リアルでは実際のモニターにメディウムを施して耐久性を持たせることは難しいですから、これはメタバース空間でしかできないことですね。

*メディウム:大理石の粉末とアクリル樹脂からできた素材

岡本
それはオリジナリティもあって面白いですね。実際にメタバース空間を訪れたお客さんの反応はどうでしたか?

池谷さん
「わ、本物はこうだったんだ!」という反応が多かったですね。ただ逆に「メタバース空間の方が良い」と思った人もいたかもしれないです。

即興!展示会の体験づくりアイディア

岡本
リアルとメタバース、お互いの空間を通じてパラレルな体験をどう付加していくか、が重要になりますね。昨年のご経験を踏まえて、今年の展示会でチャレンジしようと思っていることはありますか?

池谷さん
リアル空間に大きなモニターを設置して、メタバース空間の映像を流して、お互いの空間の様子が見えると面白いと思っています。カメラは定点にするか、移動式か…どうしたら面白いか考えたいですね。

岡本
池谷さんの視点で見れると面白いかも! アイレベルにカメラを付けていただいて、会場内を回っている視点を追うんです。他のアーティストさんの作品にも目を向けているとき、どこに意識を向けているかも分かりますよね。作品をつくったアーティストさんの新しい気づきにもつながるのでは、と思いました。

池谷さん
それ、面白いですね!昨年の展示会でも、遠方でリアル空間に来られない方から、メタバース空間が盛り上がったこともあって「実際のリアル会場を見せてほしい」という要望もありました。中継する目線を変えていっても良いかも。

岡本
メタバース空間では、体験のストーリー設計を意識して企画することが大事だと感じています。そのためには「面白くできる余白はどこか?」を考えてその要素を足していくこと、そしてリアルとの掛け合わせがポイントだと思います。

山﨑
リアルとの違いをしっかりと出すことも大事ですよね。

岡本
あとは「みんなでつくる展示空間」として、来場者からアンケートを取りながらメタバース空間をつくっていくのはどうでしょう。双方の関係性が生まれて面白くなりそうです。

池谷さん
それもいいですね。来場者の皆さんが持っている印象が分かるので、主催者としても嬉しいです。

岡本
それからアーティストさんのファンたちは、作品ができるまでの背景やプロセスにもきっと興味があると思います。そういった裏側に触れられる体験もいいと思います。

山﨑
例えば、アーティストさんは完成形の作品のために、何千枚と写真を撮影していると思いますが、世に出すものはほんの数枚ですよね。例えば、ボツになってしまった写真もファンにとっては価値あるものですし、そこに値付けされることがあっても良いと思いました。

池谷さん
それはファン向けのサービスとしていいですね。

メタバースを通じて、社会のためにできること

岡本
最後に、私たちは「空間づくりを通じて、社会や街をしあわせにする」という命題を持って仕事に取り組んでいます。フォトアーティストの池谷さんは、これから社会にどんな影響を与えていきたいですか?また街とアートの関係性について考えていることを教えてください。

池谷さん
アート市場の底上げを図るためにも、より多くの人にアートを楽しんでもらえるように、日常生活の中にいかにアートに触れる機会やアーティストとの接点をつくれるか、を考えていきたいと思っています。

岡本
それは日常生活に近い空間づくりを行っている私たちも一緒に取り組めることだと感じています。メタバース×リアルでの体験価値づくりについて、ぜひ今後も一緒に考えていけたらと思っています。今日はありがとうございました。

最後に…
アトリエにて貴重な作品をお見せいただきました。
池谷さん、鈴木さん、ありがとうございました。

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“空間と体験”を追求するチーム
プロの目線で“空間と体験”の可能性を切り取ります

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