ビジュアル・デザインから空間デザインへのアプローチ

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新しい拡がりをみせる乃村工藝社のビジュアル・グラフィック専門チームIVDとは

空間プロデュース企業である乃村工藝社グループには、ビジュアル・グラフィックデザインのプロフェッショナルチームがあります。その名はIVD(アイブイディー)。現在在籍しているのは7名のグラフィックデザイナー、率いるのは数々のプロジェクトでアートディレクターを務める鈴木不二絵。乃村工藝社という空間づくりをメインとする会社の中で、ビジュアル・グラフィックチームが提供する価値とは?また、これまでどんなプロジェクトに携わり、何を大切にしてきたのか。リーダーである鈴木不二絵に話を聞きました。

IVD Integrated Visual Designとは――この名称が意味するもの

――IVDの正式名称は、Integrated Visual Design。この名称はどのようにして生まれたのでしょうか?

「チームが誕生したのは2017年の春のことです。設立が決まった際に、メンバーでどんなチーム名にするかを話し合いました。その中で、ひときわ輝いて見えたのが『IVD』です。私たちがこれからやりたいこと、やるべきことがギュっと凝縮されており、『これしかない』と納得して選びました。“空間と融合することで、新しいブランド価値を創出するビジュアル・デザイン”――それをミッションとする我々チームの仕事内容をよく表していると思っていますし、今ではこのネーミングに、私たちのアイデンティティが現れていると感じています。」

――IVD設立前の2016年には「第20回ブリュッセル・フラワーカーペット(開催地:ベルギー・ブリュッセル)」のデザインを日本人で初めて担当されていますよね。また、IVD設立後の2018年には北海道にある「白い恋人パーク」のアートディレクターとしてキービジュアルや演出、ロゴデザイン、キャラクターデザイン、パッケージデザインを担当。そのほかに2020年秋より展開されているKDDI様の新たな店舗コンセプト「au Style」のロゴや2019年にオープンした台湾にある水族館 「Xpark」のモザイクタイル壁画のデザインなど、幅広いプロジェクトを手掛けていますが、直近の事例にはどんなものがありますか。

2016:第20回ブリュッセル・フラワーカーペット(開催地:ベルギー・ブリュッセル)

2018:「白い恋人パーク」(所在地:北海道)

「テレビ朝日系列の宮城県のテレビ局、khb東日本放送様の仕事がひと段落ついたばかりです。新社屋への移転に伴って、新たなCI(コーポレート・アイデンティティ)の策定とブランディングをさせていただきました」

「ロゴはデザインしておしまいではなく、つくり手から離れ長く使い続けられるもの」――そう考えるIVDが提供する、コトとモノ。

――CI(コーポレート・アイデンティティ)チェンジからのブランディングですね。

「はい。企業ブランドの象徴となるロゴというのは、デザイナーがつくってそこでおしまいではなく、企業、そこで働く社員の皆様がずっと長く使い続けるもの。クリエイターだけの力で出来上がるとは思っていません。ですから、私たちIVDはデザインを始める前に、まずは社員の方々との対話・コミュニケーションをとても大切にしています。フラットに会社の未来のこと、ご自身たちの想い、目指したい姿など、様々なことをお伺いするようにしています。khb様でも、まず対話の場を設けていただきました。」

――それらの対話・コミュニケーションを踏まえて、デザインの方向性を話し合われるのですね。

「デザインをする前に、対話により出てきたたくさんの言葉を受け止め、整理します。それから「想いのことば」 をご提示し、お互い共有できるまで繰り返します。これを私たちは「ことばの共有」と呼んでいます。
khb様では、社員の方一人ひとりが、宮城県、地域や視聴者の方々を本当に大切にしている会社であること。そしてそういった皆様とのつながりと共に、安心や信頼を与える放送局であり続けたい、という想いが強くあることを知りました。そのうえで、これからも放送局としてポジティブに挑戦する気持ちを持ち続けて、視聴者に、わくわくを届ける存在でありたい、そして、生まれ変わるこれからのkhbを発信したい、このような気持ち、想いがまとまりましてCIのデザインの取り組みをさせていただくこととなりました。」

――地域との繋がりを大切に考える会社である、ということなんですね。ほかにはどんな“ことば”が?

「『マスコットキャラクターである、ぐりりを大切にしている』、『5チャンネルの5を印象付けたい』というお話も出ました。新たなロゴをデザインする際には、そこも意識したところになります。」

――社員の皆様の実際の声を聞いて、そこからデザインをスタートされたのですね。

「『ことばの共有』から導き出された“新しく生まれ変わる”、“地域との一体感”、“愛着”、“挑戦の心”などのワードを念頭に置いてロゴをデザインしました。テレビ朝日系列の各局と並べて掲示したり、キャッチコピーなども合わせてプレゼンテーションを行いました。」

――khb様のキャラクターのリファインも提案されたんですよね。

「そうなんです。漫画家のいがらしみきお先生がデザインされた『ぐりり』というキャラクターで、地域の方々から愛されているとてもキュートなキャラクターです。新しくなるCIの世界観の中でぐりりがさらに愛されるようなお手伝いがなにかできないかなと考え、先生のぐりりをリスペクトしつつリファインさせていただきました。ぐりりの立体造形も制作したのですが、スタジオや工場へ足を運び、造形師さんと対面でやりとりをして細かなところまで決めていきました。」

(上)リファインされたぐりり(下)ぐりりの立体造形を細かく確認する鈴木不二絵

――プレゼン直後のkhb様の反応はどのようなものだったのでしょうか。

「『(khbの)3文字で一体どんなものが出来上がってくるんだろう』とおっしゃられていましたが、プレゼンで提案をご覧いただいた後には想いを盛り込んだデザインに共感して頂けたように感じました。また、ご提案したデザインのバリエーションにも驚かれていたようで、それはとても嬉しかったです。ロゴと同時に『あすとトモダチ』というキャッチコピーを提案したのですが、これにも意味がありまして。移転後の新社屋は“あすと長町”というエリアに建つことが決まっていたので、それで“あすと”と“明日”をかけたコピーを考えたんです。移転前のkhb様の社屋は、山の上のほうにあったんですね。そこから長町エリアに移転することで、これまで交流が少なかった地域の人とたくさん触れ合いたい。そんな企業としての願いも込めました。」

――新たなロゴを運用する場合のマニュアルなどもつくられたのですよね。採用された新しいロゴに使われ、コーポレートカラーにもなっている、ピンク・ブルー・パープル。なぜこの色を選ばれたのでしょう。

「色にはそれぞれ意味があります。ピンクには視聴者・地域の人々へのやさしさ、愛情。ブルーは安心や誠実・洗練さ。 パープルは個性や感性を育みイマジネーションを刺激する、といったように、khb様が目指しているテレビ局の将来像のイメージにぴったりなこの3色を組み合わることで、ロゴにその想いを込めました。」

――改めてお伺いしますが、鈴木さんにとって、ブランディング業務とはどのような意識で進められているのでしょうか。

「コンセプトやVIの構築、ロゴマークをデザインして、プレゼンテーションを実施し、ご判断をいただく。これはデザインの一部を切り取った姿です。
ブランディング業務において、大切なことはブランディングをおこなうことをきっかけとし、クライアントの社内でその必要性への意識や、機運が高まり、社員同士のコミュニケーションが生まれていくことです。
IVDの仕事として、デザイン、コンセプトなどのアウトプット、視覚化されたものが注目されますが、ブランディング業務では、そのプロセスをデザインすることこそが、重要だと考えています。

ですので、クライアントと打合せ、対話を繰り返し、いろいろな資料をご提示する中で、当初は控えめだったクライアントの担当者が「私たちも考えてみます!」という言葉へと変化していくことは、私にとっては非常に嬉しい傾向なんです。自分事【コト】になってきているんだなと感じ、その議論された内容をもとに、さらに対話を繰り返していくなかで、デザイン(視覚化された【モノ】)を提案していく。これはもうクライアントと共にデザインをつくり出している状態で、私はそういったプロセスを大切にしています。」

「ビジュアル・デザインから空間にアプローチする」とは、どんな考え方なのか

空間デザイン、サインのピクトデザイン、名刺や封筒などのアプリケーションに至るまでブランドの世界観を守りながらトータルにデザインを行う

――空間と融合することで、新しいブランド価値を創出するビジュアル・デザインを行うことをミッションとする――。khb様の事例を見ても、まさに最初にそう話された通りの仕事内容だなと思うのですが、「ビジュアル・デザインから空間にアプローチする」とはどういうことか、そのあたりをもう少し詳しくお話していただけますか。

「ご依頼いただく業務では、大きく2種類の方向性があるかなと考えております。1つは『空間デザインの構成要素としてのビジュアル・デザイン』です。私がこれまで担当してきたものでいうならば、ベルギーのフラワーカーペットやXparkのモザイクタイル壁画が当てはまるでしょうか。ビジュアル・デザイン自体が空間を構成するうえでの主要素となるようなものです。

もう1つは『VIを構築して、そのブランドの世界観を空間で表現するためのビジュアル・デザイン』です。
これは今回ご説明したkhb様や白い恋人パーク様が当てはまります。もちろん2つとも独立しているアプローチではなく、それぞれ重なり合う部分も多いのですが、あえて分けてみるとこのようなイメージです。
ここでは後者の方の話をしたいと思います。

クライアントが新しい施設や店舗を計画したり、リニューアルするにあたっては、新しい業態やブランドの立ち上げ、近年増加しているリブランディングをきっかけとしておこなうことが多いのですが、乃村工藝社へお声掛けいただくタイミングは、空間にかかわる企画やデザイン設計段階からが主となります。
言い換えれば、ブランディングやVI構築の段階において、なかなか「ノムラに頼んでみよう」とならなかったのです。
その理由として、乃村工藝社にこのようなデザイン領域を専門とするチームがあるとの認識がされていないことがあります。これは私たちの発信力の問題ですね。
また、クライアント側にも本来であればVIの構築が必要であるにもかかわらず、その必要性に気づいていなかったり、なにをしてよいかわからない、そもそも知らないという方々も多いのです。誤解しないでいただきたいのは、それはほとんどのクライアントにとって当然のことなのです。そういった方々に、先に説明したようなブランディングプロセスのように寄り添い、対話を繰り返しながらコンセプトやVIを構築し、そして空間にアプローチしていくことを大切にしているのです。」

――空間デザインとVIを切り離して考えた依頼が多い、ということですね。

「ええ。でも実際はVIと空間はリンクしていて、一緒に考えていくことは、とても重要なことだと思っているんです。 ビジュアルをつくっている段階で、“このビジュアルから空間に発展するときのイメージ”を、そのプロジェクトに関わる人々が共有し、それから空間づくりに進んで行く。そうすることで、より強固な統一されたブランドの世界観が出来上がるのではないか。私はそう考えています」

――khb様の事例でいうと、ロゴ、キャラクターのぐりり、ピクトや新社屋に併設された「ぐりりカフェ」で使用するサインなど、それらすべてをIVDでトータルにデザインをしたからこそ、生まれた統一感があるというわけですね。

「はい。ですのでクライアントから新業態やブランドについての相談をいただいた際はもちろんのこと、空間に関する企画やデザイン段階からのご依頼を乃村工藝社にいただいた場合でもクライアントとお話をさせていただきたいとIVDは考えているのです。
企業、そこで働く皆様の持つ想いを共有し、目指すべき方向性を一緒に考え、世界観を共につくりあげていく。
ブランドの世界観と空間デザインが一体になったものを、私たち乃村工藝社なら提案できると思いますし、それにより企業のブランド価値向上につながると信じています。それこそがIVDの目指すべき方向性だと考えています」

広告、カメラ、博物館――ノムラに入社したからこそ、かなった夢。

――ところで、学生時代にグラフィックデザインを専門に学んだ鈴木さんが、空間デザインをメインとする乃村工藝社に入社するという選択をしたわけですが、振り返ってみていかがでしょうか。

「学生時代には『人々の心に響く広告をつくりたい』『一人の人の人生を後世に伝える博物館をつくりたい』という夢を持っていました。でも入社できるのは一つの会社。すべての夢を叶えることは出来ないと思っていました。でも気がつけば、ノムラで広告デザインを手がけさせて頂いたり、尊敬する藤子・F・不二雄先生の『川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム』に携わることができました。また、学生の頃はフィルムを自ら現像し印画紙に焼き暗室に籠って理想の写真を作り上げるほど写真が好きで、カメラメーカーの入社試験を受けたことがあるほどでしたが、ノムラに入ってからカメラメーカーの広告やショールームを手掛けました。それもこれも乃村工藝社のクリエイティブに『このジャンルには足を踏み入れてはいけない』という制限がないからこそ、かなった夢なんだろうなと思っています」

――鈴木さんを採用した担当者さんから、当時かけられた言葉があるそうですね。

「ええ。『乃村工藝社はこれからは君みたいなデザイナーに空間をつくって欲しいんだ。君みたいな人が必要だと思った』と言って頂きました。入社以降、いろいろな経験や実績を積み、こうしてIVDというチームを任せていただくようになり、ようやくそのときの期待に応えることができてきているのかなと感じています。」

――グラフィック専門の鈴木さんを採用したことで、説明いただいたkhb様のような企業CIやVIの策定など、乃村工藝社としてのデザインの領域が広がったといえますから、担当者の方は先見の明を持っていたということですね。さて、最後になりますが、鈴木さんを含め現在7名で構成されているIVDについて、もう少し聞かせてもらってもいいですか。

「私たちは、常にIVDの目標やビジョンを共有しながら仕事を進めています。日々能力を磨き上げ、刺激しあいながら、真摯に仕事に向き合うことのできるチームです。お互いに尊敬しあう関係であり、そのことが一体感、団結力を生んでいると感じています。メンバー間でクリエイティブのイベントを誘い合ったりするなど、情報交換も活発に行われているんですよ。
業務プロセスについてですが、ご依頼をいただいた際には、私が要望や与件、検討の方向性などを確認してスタートするようにしています。さらに進捗状況や提案前も同様に確認をおこないます。特にブランディング業務においてはクライアントの事業戦略、経営戦略とのつながりを意識するようにしています。」

――お互いに刺激し合い、切磋琢磨しながら仕事に取り組むIVDメンバーの日常が目に浮かぶようです。本日はありがとうございました。

khb東日本放送様の新CI策定とブランディングについては、khb東日本放送様と鈴木不二絵の対談を通じて後日より詳しく公開します。
※後編記事はこちら

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