スペシャルオリンピックスとは?多様性社会を先導する組織に潜入!

井戸 幸一
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井戸 幸一

はじめに

乃村工藝社は、知的障がいのある人たちに様々なスポーツトレーニングとその成果の発表の場である競技会を提供している国際的なスポーツ組織「公益財団法人スペシャルオリンピックス日本(SON)」が2023年3月に開催した企画展を企画・設計・施工させていただきました。企画展を一緒につくり上げる中で感じた団体の皆さまの想いや社会的意義が素晴らしく、その活動の詳細や企画展の中身について、企画を担当した井戸がインタビュー形式でご紹介したいと思います。

井戸
本日は、公益財団法人スペシャルオリンピックス日本(以後SONと略す)の事務所にお邪魔しています。愛知県の中京大学で開催した企画展に関わらせていただいたご縁から、ぜひその取り組みと企画展のことを、もっと多くの人に知ってもらいたいと考えました。よろしくお願いします。(インタビュー実施:2023年4月17日)

 
★新谷舞子さん。通常業務の傍ら、SON企画展の主担当として奮闘中。
★西新橋のSON東京事務所 インタビュー風景

スペシャルオリンピックスとのフィリピンでの出会い(新谷さんの場合)

井戸
それではまず、自己紹介から伺いたいと思います。

新谷
はい、よろしくお願いします。経営企画部の資金調達広報課に所属しています。もともと海外にすごく興味があり、大学では国内外のNGOやNPOでインターンに参加し、地域活動に携わりました。その後、青年海外協力隊としてフィリピンのNGOに赴任しました。

フィリピンで活動しているときに、スペシャルオリンピックス(以後SOと略す)のアスリート(新体操・フィリピン人・高校3年生)と出会いました。彼女が「私メダルいっぱい持っているのよ」と見せてくれたことでSOについて知り、帰国するタイミングで、SONに就職しました。

井戸
それは運命的なものがありますね。国内ではなく、海外で出会って、海外で得た視点を持って国内のことを考えていく。戻って来る時にたまたまかもしれないですけど、そこは導かれるようなところがあったわけですね。

新谷
はい。自分自身の中で、障がいのある人たちと一緒に働いた2年間をどう活かすか考えた時に、SONで働きたいと思いました。

井戸
ありがとうございます。SONの組織やSOの仕組みについては、分かりやすく伝えていきたいなと思っていますので、今の話を踏まえて、また後で教えてください。では、宍戸さんよろしくお願いします。

スペシャルオリンピックスとの出会い(宍戸さんの場合)


★宍戸咲季子さん。経営企画部の部長としてSONを引っ張る、熱い思いを吐露してくれました。

宍戸
はい、よろしくお願いいたします。私はSONに入ったのが2007年です。それから16年目に入りました。SONで仕事をする前からスポーツ観戦がすごく好きで、スポーツの現場によく行っていました。そこには応援する人がいて、競技を頑張る人がいて、運営する人がいて、それを報道する人がいて。外国の方もいたり、家族もいたり、みんなが熱狂しているあの雰囲気が好きでした。色々なスポーツに触れるなかで、長野で2005年にSOの世界大会があったことを初めて知りました。

「スペシャルオリンピックス」の名前も知らなかったし、知的障がいのある人たちの競技会があり、しかもこんなに大きな規模の大会が日本であったことを知りびっくりしました。ウェブサイトを見たらユニス・ケネディ・シュライバーの理念や、活動の趣旨にとても共感して、そしてその活動が世界で広がっていることも知りました。それが出会いになります。

そしてそこから寄付を依頼するファンドレイジング活動や広報活動を担当してきました。さまざまな企業・団体や個人との渉外活動をおこなうなかで本当に多くのことを学びました。そしてその後、企画マーケティングチームで主に資金調達をおこなってきました。

井戸
寄付集めなど、そういった活動を専門にですか?

宍戸
SOは非営利活動ですので、企業・団体、個人の皆さまの寄付や協賛金で活動をおこなっています。資金はもちろん大切ですが、活動の理念に共感して下さる仲間を増やしていくことや社会的な必要性を伝えていく仕事だと思い取り組んでいます。

「SOの理念を具現化する」という全国のムーブメントが組織の全体像

井戸
ありがとうございます。日本におけるSONの話をお聞かせください。組織の規模とか、あとは支部とか県とかと連携を取っているのかなど、そのあたりを教えていただけますか?

宍戸
まず、組織全体のところからですが、SONは、SO国際本部から認証を受けて活動している国内本部組織です。1国に1本部あり、コーチの育成、ナショナルゲームの開催、世界大会への日本選手団派遣をはじめ国際本部と様々な連携をとり、そして全国47の都道府県の地区組織と連携し、事業の方向性も伝えながらSO活動の普及と促進をはかっています。地区組織では、アスリート、コーチ、ボランティアと日常的なスポーツプログラムを地域で展開しています。
知的障がいのある人たちが地域で活動をおこなう組織としてそれぞれが独立した組織になりますが、国際的に広がる理念と日本での活動方針を共有しながら活動はそれぞれの地域で運営していく、そういう全体像です。

宍戸
今、約7,100人(※2022年12月末時点)の知的障がいのあるアスリートが、自分が住んでいる都道府県の地区組織で、スポーツプログラムに参加しています。

井戸
お話を聞くと、ものすごく上下関係がはっきりした組織じゃなくて、けっこう緩やかな、理念に共鳴したところで参加するような。そういうイメージなのかなと思いました。

宍戸
それぞれの地域で、知的障がいのある人やない人がスポーツを通して共に活きていく活動をするというというその理念を具現化しよう、という全国的なムーブメントです。

井戸
でも逆に言うと、それぞれの地区組織が自律的だとすると、やっぱり考え方も違うだろうし、意見がもしかしたら違うかもしれない。そういうところを調整したり、摺り合わせをしたりとかいうのは、なかなか大変じゃないかなとお聞きして思いました。
地方とか地域別で違いがありそうだ。

宍戸
そうですね。大切なのは、SOの「Special Olympics」※に複数形のSが付いているように、一過性の大会や組織の名前ではなくて、やっぱりムーブメントであるということだと思います。そうすると、この複数形のSを実現していくのは現場ひとつひとつだと思うんです。
※複数形のSの意味は、大会に限らず、 日常的なスポーツトレーニングから世界大会まで、 様々な活動が年間を通じて、 世界中でおこなわれていることを意味する。

宍戸
日頃の練習の成果を発表する場として夏季・冬季と4年に1度ナショナルゲームを主催し、その翌年に世界大会へ日本選手団を派遣するのはSONの事業です。勝敗や順位だけではなく、昨日までの練習の成果を発揮する自分自身への挑戦の機会を継続して提供する。しっかりと様々な課題はありつつも、日常のプログラムとそれを発揮する競技会を両輪で盛り上げていくこところがSONの事業の重要なところだと思います。

井戸
SONの本部は何人ぐらいの組織でしょうか?

宍戸
事務局スタッフは13名です。

井戸
宍戸さんは経営企画部ですね?

宍戸
はい。経営企画部は資金の調達、マーケティング、支援企業との渉外活動やいろんなイベントや広報を担当しています。

「世界の、日本の、ご近所の、スペシャルオリンピックス」
組織運営は大変です…

井戸
そうすると、そもそもの話で、先ほどから何回も出ました複数形のSの話だと思うのですが、SOを分かりやすく、説明していただけるとありがたいです。

宍戸
SOは、知的障がいのある人たちに日常的なスポーツトレーニングとその練習の成果の発表の場である競技会を提供する国際的なスポーツ組織です。そして提供することが最終ゴールではなくて、彼らの社会参加を応援し、それを実現していくことがこの組織の一番大きなミッションです。

井戸
社会参加というのはどういう意味の社会参加ですか?

宍戸
知的障がいのある人たちがスポーツをしたり、地域の人たちと一緒に活動したりする機会、そして社会での雇用の機会や彼らの能力を活かして活躍する機会はまだまだ少ないと私たちは捉えています。そういった場を増やしていきたい。そしてそれは状況だけを改善するというよりは、知的障がいのある人たちのことを知り、理解することをスポーツを通して伝えていきたい、共に理解し合い活躍し合う場をつくっていきたい。それによって、“共に活きる社会”を推進していきたいと考えています。

宍戸
そして、オリンピックやパラリンピックと同じように4年に1度世界大会があります。その前年に、その世界大会に出場するための日本選手団を選考するナショナルゲームを開催しています。ということは、毎年競技会があるというサイクルになります。


★活動のイメージ図(展示解説グラフィックより)。

井戸
そうすると、国内もやらなきゃいけないし、派遣もしなきゃいけないと4年のうちの半分ぐらいは大会期間ですね。

宍戸
そうですね。そして世界大会では知的障がいのあるアスリートたちが2週間ほど親元を離れて、その競技にしっかり集中し日頃の練習の成果を発揮出来るよう、そのための合宿も何回かおこないます。

井戸
合宿はどこでやるのですか?事前合宿ですか?それとも世界大会の地での合宿ですか?

宍戸
事前合宿です。2023年は6月にベルリン大会がありましたが、まず1月に、全体で東京で合宿をおこないました。2回目は3月にパートナー企業のトヨタ自動車様のご協力で、愛知県豊田市のトヨタスポーツセンターで全体の合宿をおこないました。4月末が3回目で、これはチーム競技になるんですけれども、バスケットボールとサッカーの競技のみトヨタスポーツセンターで合宿をおこないました。

井戸
社会参加を応援するという形の中で、やっぱり目標が必要で、それが4年に1回の世界大会で、その前に国内大会もあるし、事前合宿もあるし、しかも夏季冬季があって競技数もかなり多いはずですよね。現在、何競技あるのでしょうか?

新谷
国内だと今、25競技です。

宍戸
うち冬季が8競技です。

井戸
その場合、競技の垣根を超えて一緒に派遣されると、その中でも交流が生まれたりするのでしょうか?

宍戸
はい、日本選手団としての選手団行動になるので、大会中の競技はもちろんそれぞれ違いますが、ホストタウンプログラムや開閉会式の選手団入場をはじめ一緒に移動や食事をしたりすることで競技を越えて交流する、貴重な機会になりますね。

ユニファイド形式の競技を広げていく、それがいま国際的な潮流へ

井戸
SOの場合、種目としては通常のスポーツと、例えばルールが違うとか道具が違うとか、何かが違うという特徴があるのでしょうか?

宍戸
SOには独自の競技があります。フロアホッケーがそうです。アイスリンクが無い地域でも出来るようにSOがルールを独自に考案して生まれた冬季競技です。また、ユニファイドスポーツ®もSO独自の取り組みです。

井戸
そこは例えばパラリンピックだったら、障がいを持った方が点数制で、チームの中でバランスをとり競技の得点にも絡んでくる形で構成されているけれども、健常者の方が一緒にやるのはまた違いますよね。ちょっと分かりやすさで言うと、オリンピックというのは本当にアスリート志向で競技力優先になっていますよね。パラリンピックは色んな障がいを持った方が参加されるけども、やっぱり健常者の方と一緒にやらないですよね。今の話で言うと、健常者の方と一緒に行う形式はチームスポーツの場合ということでよいですか?

宍戸
そうですね。ボウリングで一打ずつ投げたりとか、バドミントンもユニファイドで、ペアで出たりとか。ユニファイドスポーツ®の形式を取り入れている競技はどんどん広がっています。活動のミッションとして、知的障がいのある人もない人も一緒に共生する社会を目指していますので、ユニファイドスポーツ®はまさにそれを具現化しているものです。サッカー元日本代表の北澤豪さんがユニファイドサッカーの合宿に来て下さったときに「目指すべき共生社会がピッチでできているんだね」とコメントされました。スポーツでまず取り組んでいるこのかたちが社会で当たり前に共生社会として形作られていったら良いね、と。今、国際本部の方ではどんどんユニファイド形式を広げていこうということで、世界的な潮流になってきています。


★ユニファイドスポーツ形式のイメージ図(展示解説グラフィックより)。

井戸
お話を聞いて思い出したのは、最初に展示の打ち合わせのために事務所を訪問した際、いろいろお話させてもらった時に「いいな」と思ったのは、やっぱりスポーツの持っている原初的な体験を大切にされているというか、取り組みの良さみたいなものが、すごく純粋ですよね。ある意味、SOはとても参加されている方も支援する方も純粋な思いをみんなで支えようと応援し合う、そんな姿に心が動かされます。
今回の展示の仕事をさせてもらって、とても共感を受けたところです。誰もが純粋にスポーツをやって楽しいみたいな、それがやはり機会として大切で、そうしたところを理念に捉えて大切にしつつ、組織の情報を発信するということをやっぱり一生懸命、われわれも一緒に考えたいのだと、そういう文脈で展示のお話しをはじめたことを覚えています。その部分をいろいろな人にも、少し共感の入り口にして欲しいなあと思います。

宍戸
SOはスポーツ組織として活動を行っています。クラス分けをして競い合うことで能力を引き出す「ディビジョニング」という仕組みや全アスリートが頑張ったことを称える「全員表彰」などが基本としてあり、そしてスポーツを通して社会につながったり、発信することが出来るところがとても幅の広い活動だと思います。

宍戸
順位や結果だけが大切ではない、幅広い努力や、応援してくれている人たちの思いや日常的な努力というものをアスリートだけじゃなくてみんなで分かち合っていこうという部分がしっかりと形になっていると思います。

井戸
スポーツは趣味でしていても、なかなか実は続けていくことが難しくて、環境や経済的な問題、仲間がいないと続かないこともある。スポーツは個人でやろうと思えばできるけれども、仲間がいるとやっぱり持続力が生まれる。仲間と高めあって、それで称え合うみたいなことが、仕組みとしてちゃんと可視化されるというのも、やはり重要なのではないかと思います。

宍戸・新谷
そうですね。

井戸
例えば、スポーツ選手に憧れがあれば、同じことやってみたいとか真似したいというのもあるでしょうし、上の大会に自分もチャレンジしたいとか、仲間と一緒だったら頑張れるとか、やっぱり機会っていうのが必要だと思います。

宍戸
スポーツが苦手だと意外とそのコミュニティに入って行きづらくないですか?やっぱりすごくできる人たちで集まってやっているイメージがあるのですが、SOはそういう心のハードルを持たずに参加することが出来ると思います。

井戸
ちょっと垣根が低いような気がしますね。さっきのルールの作り方もそうです。

宍戸
ずっと練習を頑張っていてスキルが上がれば、また次のディビジョンにも挑戦出来るし、初めてその競技をする人もいれば、逆にコーチ資格を持っているような人も、みんなが楽しくここにいていいんだって思えるような。学校の体育やクラブでももうちょっと工夫があれば、もっと幅広くスポーツに親しめる人が増えるんじゃないかなと思います。

井戸
ありがとうございます。位置づけを含めてSONの組織の話などお話しをお聞きできました。その活動をどう展示で伝えていくのか、後半は今回の企画展のことを絡めたお話を聞ければと思います。(内容は第2弾に続きます)

【参考URL】
公益財団法人スペシャルオリンピックス日本
https://www.son.or.jp/
スペシャルオリンピックス日本企画展(in中京大学スポーツミュージアム)
https://sportsmuseum.chukyo-u.ac.jp/xo_event/202303_7th_special-olympics

備考①:企画展「スペシャルオリンピックス〜Be with All® だれもが活きる社会の実現へ〜」は中京大学スポーツミュージアムにて、2023年3月15日から7月13日まで開催されました。
スペシャルオリンピックス日本と中京大学スポーツミュージアムの共催で、「Designed by 乃村工藝社」として、乃村工藝社は協賛サポートを行いました。

備考②:11月から長野で開催するスペシャルオリンピックスナショナルゲームの会場で再度の展示が予定されています。
11月18―19日:ホワイトリング(長野市真島総合スポーツアリーナ)
2月24―25日:長野市若里市民文化ホール

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井戸 幸一

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