千里中央公園の収益施設「1OOORE SCENES」

地域参加型アートイベントで、公園に新たな出会いを

松浦 麻基
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松浦 麻基

2023年3月、千里中央公園の収益施設「1OOORE SCENES」のオープンに合わせ地域参加型のアート・ワークショップを開催。私たちは収益施設の空間設計・施工 に加えて、公園活性化事業企画・運営を担当しています。今回はアートプロジェクトを通して地域のみなさんと一緒に施設づくりの試みを行いました。
2022年10月、公園倉庫だった建物のリノベーションの着工前に、公園の新しい魅力を発見する第1回目のアート・ワークショップ「色をみつけて、色をつくる」を開催し、今回のワークショップではその時につくった色を使いコミュニティスペースの壁や備品を参加者のみなさんと一緒にペイントしました。
関連記事:「色をみつけて、色をつくる」 ―千里中央公園アートワークショップ

雨でも活気に満ちた地域参加型のアート・ワークショップ

WS当日:みんなで使うラボの壁や備品をペイント

地域参加型イベントの様子

ワークショップ当日はあいにくの雨でしたが、全5回とも満員御礼で、昨年の10月の色をみつけるワークショップに参加いただいた方も多くご参加いただきました。アーティストの中島麦さんやスタッフとの再会を楽しみにされていたというお声も聞き、地域参加型イベントは継続していくことが大事だと改めて感じました。

参加型アートの共同制作プロセス

みんなの個性あふれた○が重なっていく

参加型アートの共同制作の様子

今回のワークショップでは、美術家の中島麦さん監修のもと、○を描くという共通のルールを設け、公園で見つけ作った20数色の中から自分が好きな色で木製プランターなどを塗ってもらいました。○といっても大きさや形はみんなそれぞれ。回を重ねるごとに○が重なり、まさに協働で大きな作品をつくっていくようでした。施設オープン後に、自分が描いた場所を見にくるお子さんもおられ、何年経ってもこの日の記憶が残り、公園に足を運ぶきっかけになればと感じました。

地域参加型のアートで地域コミュニティの融合

座談会

後日、主催者のエイチ・ツー・オー リテイリングの杉本さん、原田さん、美術家の中島麦さん、当社のプロジェクトリーダーの左近と座談会を行い、今回のワークショップを通しての新たな発見や、今後の公園・地域づくりの可能性やヒントを探りました。

座談会の様子

【今回のアート・ワークショップは、千里中央公園ならでは、かつ生まれ変わる公園倉庫を活かしたワークショップの内容を、大阪を拠点に活動されている美術家の中島麦さんにお声がけして一緒に考えていただきましたが、実際に手がけてみていかがでしたか?】

麦さん
今回のプロジェクトで良かった点としては、企画段階から完成まで様々なプロセスで関わることができたことです。最後の飾りとしてアートが選ばれることが多い中、どんな建物にするか、どのようなゴールを目指すか、作品づくりの前段階から皆さんと一緒に考えることができたのが大きかったですね。今回のプロジェクトではいろいろな人の目線が入るため緊張感がありました。公共の空間に残る大きな規模のプロジェクトに関わる事ができたのは多くの企業が関わっているからこそ、だと感じました。アートの特性上、とりわけワークショップを介しての作品制作という計画段階では完成イメージが見えない中で、主催者の杉本さんと原田さんがよくぞオッケーを出してくれました。

原田さん
当社としても最初の段階から地域を巻き込まないと意味がないと思っていたので、麦さんとの最初の打ち合わせで私たちの思いをお伝えしたとき、それをかみ砕いてくださって、ちゃんと分かってくれる人がいた、と感じたことを覚えています。麦さんが「僕の作品として残すわけではない」と言っていたのもすごく印象的でした。

アートにおける色彩と空間デザインの探求

【今回は企業とアーティストさんの思いが一致したプロジェクトになったと思いますが、アートと空間デザインが掛け合わさったのも、このプロジェクトならではだったと思います。建物を塗る色を選ぶとき、麦さんと建築家、デザイナーとのやりとりが印象的でした。】

麦さん
みんなで色のサンプルを見ながら決めるときですね。最終的には僕が選んだものをごり押しした気がします(笑)。色を選ぶとき、もちろん色彩の基本的なお約束事も頭にあるのですが、最後の選択は直感ですね、公園の四季を想像しながらの。色を理論的に調和させるのはある意味簡単なんですが、そこをどう崩すか、ちょっと不安にさせるギリギリのところを狙う方が作品として面白くなると思っています。
仕上がりがどんな風になるかすごくドキドキしたけど、 エイチ・ツー・オー リテイリングの杉本さんが「アートは自由だ」と言ってくださって、作品として捉えてくださる懐の深さがありました。今回のプロジェクトでは、みなさんがいかに自由を楽しめる枠組み/手法を美術家としてつくることができるのか、僕が絵を描くときに意識していることでもありますね。

「公園の⾊」の中から「建物を塗る」24⾊を選ぶ様子
第1回目のワークショップでみんなでつくった「公園の⾊」の中から「建物を塗る」24⾊を選びました。

杉本さん
僕もどんなものができるかドキドキしましたが、今回のプロジェクトは、企業、行政、建築家、アーティストなどそれぞれの違う領域の人たちが関わって、ギリギリのラインをせめぎ合っていたのが面白かったです。もちろん、プロジェクトが瓦解しないようにするのは大前提ですが、「アートは自由だ」という言葉もみんなを解き放つために言ったのを覚えています。完成形が見えない心配もありましたが、社内でも何か意味があるんだろうと信じてもらえる土台がありました。

原田さん
確かに心配もあったけれども、デザイナーさんにしても麦さんにしても、プロの方にお願いしているので、ちゃんと形になるであろう安心感がありました。

麦さん
プロセスやコンセプトは良いけれど出来上がったモノの解像度の低いアート・ワークショップが巷に溢れていると思っていて、今回は残る物をつくるわけなので、ちゃんと作品としても成立するようにしたいと思ったんです。そのために、設計や施工チームを含め多様な専門家がアートとして尊重してくれたこと、足場の準備や調色の手配、当日のサポートスタッフまで、必要なことを理解してくれる人たちがチームに居たことはとても心強かったですね。

地域参加型のアート・ワークショップの社会的意義

【今回のWSで千里中央公園における地域の魅力発見の取り組みを行いましたが、アートならではの可能性はなんだと感じますか?】

原田さん
今まで百貨店の中で単発でアートに関わることはあったのですが、半年や1年という時間をかけて、自分のいる建物に形として残り、それによって地域の人と関われたのがよかったです。アートは商品として買うものというイメージもあったのですが、コミュニケーションのツールにもなることを実感しました。最初は、昨年取り組んだ公園の色を探すフィールドワークに本当に人が集まるかが不安でしたが、実際には100人近くの応募があり、「公園のフィールドを活かすというのはこういうことか」とアートを通して知ることができ、今ではあのプロセスが一番良かったと感じています。目的とゴールがあるワークショップが多い中、今回は「色をみつけて、色をつくる」という抽象的なテーマだったので、この地域の人が感覚的なもの、アートに興味があることも発見でしたし、ある意味目的とゴールがある小売りの概念がひっくり返りました。
未就学児が中心でしたが、世代を超えて大人も楽しんでくれて、みんなすごい勢いで描いていったのが印象的でした。

麦さん
ワークショップでの画材選びは、参加者の皆さんにとってあまり身近でないものを選ぶことも大切だと思っていて、家や学校でできないちょっと非日常的な景色/場をつくってあげることがテンションを上げてもらえるポイントだと思っています。意外と多くの方が体験していないシンプルな「塗る」という行為で、何かを覆いつくすという達成感を感じることができるし、また見ている景色が変わる変化の面白さもあったと思います。アート・ワークショップで重要なことは、何かを作ることを通して視点を変えてもらう体験ができること、これも僕自身の作品制作と共通する大切なことですね。

アート・ワークショップについての会話

ワークショップを通じた記憶と経験の共有

【今回のワークショップを行って良かったと思った体験談はありますか?】

左近
僕が今回のワークショップをやって良かったと思った瞬間は、桜のシーズンにランドセルを背追ったお子さんが「僕が塗ったところ」と見に来てくれたことです。今回のワークショップは売り上げや利益に直接的に結びつかないのですが、定量ではない部分の価値が重要だと感じました。

原田さん
再来は確かにあります。関わった人たちが今でも見に来てくれたり、他のワークショップに参加してくださったりするきっかけになりました。あと、この建物がグレーのままだったらきれいではあるけれども、あまり認識されなかったかもしれない。自然の緑の中に突如ポップなものが現れて、写真を取ってくれたり溶け込んでいるんだけどキャッチーな感じがあります。この場所に滞在する中で、すれ違うコミュニケーションがあると思っていて、アートとしてつくった建物が媒介になってあいさつや会話がうまれるきっかけになると感じます。

ラボ塗装前ラボ塗装前

ラボ塗装後ラボ塗装後

杉本さん
アートが何かよく分かっていないけど、ひとつ言えるのは、目に見えて100人が100人変わったと分かるのがすごいと思いました。遠くから歩いてきたらよく分かるんですけど、理屈じゃなく活き活きしていて、生きる衝動が溢れて、場に命が吹き込まれた感覚がありました。出会うはずのない人が出会うきっかけづくりというのが僕の役割だと思っていて、これからも今回のアートプロジェクトのように面白いことをしたがっている違う分野の人たちを繋げて、今なでにないモノをつくっていきたいと思っています。

松浦
今回のワークショップを通して、場づくりのプロセスにアートを取り入れることで地域の人やここに関わる人と一緒になって空間をつくっていけることに改めて可能性を感じました。非日常的な体験がみなさんの記憶の中に強く残って、公園へのつながりを感じてもらえるきっかけになるんじゃないかと思います。今後も継続的に公園づくりに関われると嬉しいです。本日はありがとうございました。

主催|エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社
共催|豊中市 環境部 公園みどり推進課
企画・運営|株式会社乃村工藝社
協賛|エスケー化研株式会社、株式会社フクイ工務店

大阪・千里中央公園

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松浦 麻基

松浦 麻基

営業兼アートコーディネーター
アートで感性をひらく体験を

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