ウェルビーイングなまちづくり地域住民と育てるコミュニティスペースとまちづくり

ウェルビーイングなまちづくり
地域住民と育てるコミュニティスペースとまちづくり

ソーシャルグッド戦略部
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乃村工藝社の「SOCIAL GOOD WEEK 2022」の一環として、“ウェルビーイングなまちづくり”をテーマに11月10日(木)11日(金)の2日間にわたって「ウェルビーイングセミナー」が開催されました。初日のセミナーは2部構成で、第1部がコミュニティデザイナーであり関西学院大学建築学部教授の山崎亮氏のオンライン講演。第2部では大阪府豊中市の千里中央公園で地域活性化につながる場づくりに実際に取り組んでいる原田綾子氏、神庭慎次氏のお二人をお招きし、ファシリテーターとして乃村工藝社プランナーの梶村直美の3名がトークセッションを行いました。

本稿では、セミナーで語られたメッセージと登壇者たちによるアフタートークの様子をお届けします。

ウェルビーイングwell-beingとは?
ウェルビーイング(well-being)とは、身体的、精神的、社会的に健康で満足している状態を指す言葉です。日本語では「幸福」「健康」「福利」と訳され、心身と社会生活が良好な状態を表します。この概念は、一時的な幸せ(英語で「Happiness」)とは異なり、長期的な幸福感を含むニュアンスがあります。この言葉の起源は16世紀イタリアの「benessere(ベネッセレ)」。世界保健機関(WHO)憲章※では、健康とは何かを説明する前文にウェルビーイングが定義されています。

※世界保健機関憲章前文 (日本WHO協会仮訳)
“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」

第1部 ———
山崎亮氏 オンライン講演 コミュニティデザインの潮流と地域活性化へのプロセス

山崎亮氏 オンライン講演 コミュニティデザインの潮流と地域活性化へのプロセス

ウェルビーイングって“なんかいい感じ”ってこと

山崎さん
人々に“なんかいい感じ”と思わせるには空間デザインだけではなく、その空間で提供されるモノや起こるコト、集まるヒトも大切な要素です。その空間で“なんかいい感じ”と思い、家に帰って思い起こしてニヤニヤしてまた行きたいと思う。現在だけでなく、過去を振り返っても、未来に想いを馳せても“なんかいい感じ”と思えることが大切です。昔からハードとソフトの連携が大切だと言われてきましたが、ハードに関わる人はソフトまで手が回らない、ソフトに関わる人はハードのことは専門外でよくわからないと分断していました。この両方をブリッジしないとコミュニティデザインはできません。コミュニティデザインは、地域住民が自分たちの地域を“なんかいい感じ”だなと思えるようにデザインしていくこと。それをサポートするのが私たちの仕事です。

今までのまちづくりの仕事は、完成形を最初にイメージするところからスタートしていました。企画案や設計図などの構想が最初にあって、各パートを各専門家に依頼し全体を完成させるというやり方です。しかし、地域の住民たちによるまちづくりは、住民の意見や得意なことをヒアリングすることからスタートします。その後ワークショップを開いたり、住民のチームをつくったりします。

ウェルビーイングは地域の人とともにつくっていく

私たちが地域の人の代わりに“なんかいい感じ”を実現させてあげるのではありません。地域の人たちが自分たちで“なんかいい感じ”をつくり出す方法をお教えしたり、体感していただいたりして、地域の人たちでチームをつくってその空間を使いこなしていく、そのプロセスを経て地域が豊かになり、“なんかいい感じ”なまちづくりにつながっていきます。これからのウェルビーイングなまちづくりは、仕事のやり方を変える必要があります。

 

オンライン講演では様々な事例を取り上げながら、山崎さんがコミュニティのデザインの仕方や地域活性化へのプロセスについてお話ししています。どうぞ、アーカイブ映像をご覧ください。

山崎さん講演アーカイブ映像をご視聴希望の方は、こちらよりご登録ください。(2024年2月29日までの期間限定公開)

山崎亮さん(オンライン講演)
studio-L代表、関西学院大学建築学部教授、社会福祉士。コミュニティデザイナーとして地域課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わり、まちづくりワークショップ開催や住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに取り組んでいる。

第2部 ———
クロストーク 千里中央公園やコミュニティ施設によるケーススタディ

クロストーク 千里中央公園やコミュニティ施設によるケーススタディ

ウェルビーイングなまちづくり 事例①
公民連携+地域住民による公園づくり

大阪府豊中市の千里中央公園は、千里丘陵に千里ニュータウンが建設されたときに開園した公園です。前回の公園整備から30年以上が経つこともあり、豊中市では公民連携による公園の整備と活性化をめざし「千里中央公園再整備にかかる活性化事業」を公募。阪急阪神東宝グループの一員で同グループの小売業を統括しているエイチ・ツー・オー リテイリング株式会社は、NTT西日本、ローソンなど民間企業3社で「千里中央公園パートナーズ」を構成し、事業に取り組んでいます。乃村工藝社も、千里中央公園の収益施設の設計・施工、活性化事業の企画・運営で協力企業として参画しています。

トークセッションは事業を推進するエイチ・ツー・オー リテイリング株式会社の原田綾子さんとコミュニティデザインの立場からプロジェクトに参画しているstudio-Lの神庭慎次さん、乃村工藝社でショールームを地域のコミュニティスペースとしてリニューアルした京葉ガスの「KeiyoGAS Community Terrace(愛称 てらす)」のプロジェクトに携わった乃村工藝社の梶村直美によって行われました。

千里中央公園やコミュニティ施設によるケーススタディのクロストーク

ウェルビーイングなまちづくり 事例②
みんなでつくって育てていく公園とは

豊中市から提示された再整備のコンセプトは「元気×公園」~アクティブに楽しむ公園~。これに対し原田さんたちは『PLAY 1〇〇〇RE SCENES (プレイ 「センリ」 シーンズ)※』を事業コンセプトに掲げ、地域住民を巻き込み、地域住民と一緒に考え、課題を解決して公園を育てていこうとしています。従来の行政と企業との連携と大きく違うのは地域住民に公園づくりに参加してもらおうという目的です。

PLAY 1〇〇〇RE SCENES (プレイ 「センリ」 シーンズ)
公園内にある建物をリノベーションした収益施設公園内にある建物をリノベーションした収益施設
2023年3月に公園内にある建物をリノベーションした収益施設がオープン

神庭さん
コミュニティデザインの立場からパークマネジメントを行う際、地域の人たちに参加してもらうために4つのステップを踏んでいます。一つ目がリサーチでいろいろな人からヒアリングします。二つ目がワークショップ。その後に三つ目として実際に活動していただく人たちのチームづくり、そして四つ目にそれらの活動のサポートです。

原田さん
公園にパークコミュニケーターを常駐させ、地域の皆さんと様々な作戦会議をして公園をめいっぱい使っていただこうと考えています。

神庭さん
最近、観光案内所ではなく関係案内所という言葉が聞かれます。そこに行けばこの地域に誰がいてどんなことをしているかというのがわかる場所なのですが、パークコミュニケーターが公園にいることのメリットは大きいと思います。

※〇pen(すべての人に開かれている)、〇rdinary(日常を彩る)、〇rganic(いまあるものを活かす)により、公園の魅力を再発見し、千里のくらしを彩る千の景色をみんなでつくる。

 

クロストークでは、地域住民と一緒に行うコミュニティスペースづくり、まちづくりに関するたくさんのヒントをいただけました。

クロストークのアーカイブ動画をご視聴希望の方は、こちらよりお申込みください。セミナー動画全編の視聴、スライド資料をダウンロードいただけます。

AFTER TALK ———
クロストークを終えて

左から、梶村・神庭さん・原田さん・左近
左から、梶村・神庭さん・原田さん・左近

セミナー終了後、登壇した3名に加えて乃村工藝社の「千里中央公園再整備にかかる活性化事業」プロジェクトリーダーの左近 諒を加えてセミナーの感想や語りつくせなかったことなどについて話し合いました。

どうしたら地域住民に飛び込んできてもらえるの?

左近
私はこのプロジェクトで乃村工藝社側のマネージメントを担当していますが、この事業は、とにかく内容の濃い事業です。皆さん、限られた時間では伝えきれなかったこともあったのではないですか?

梶村
私もお二人にもっと聞きたかったと思うことがたくさんあって……例えばどうやって住民の主体性を引き出していくのか、さらに面白い住民を見つけ出すというところがポイントだと個人的に思っているのですが、どうやって人を見つけて、どうやってつながっていくのかをお聞きしたいと思っていました。

神庭
ワークショップをする前の、ヒアリングの段階がとても重要です。要望を訴える人ではなくて、これから何か活動していきたいという人に話を聞くのがいいと思います。そういう人とつながると、その人の後ろに同じような活動をしている人がいて、その人たちとも知り合えます。さらに、積極的な人がたくさん入って来て、その後に行うワークショップが有意義なものになります。

梶村
神庭さんは日本中のいろいろな地域を巡られていますが、地域によって住民の個性は違いますか?

神庭
関西はノリがいいですね。千里中央公園のときも、笑いのわかる方がたくさんいらっしゃった。笑

千里中央公園のワークショップ

梶村
そこ、重要ですよね。

神庭
空気をつくってもらえると、その後の雑談や意見交換がしやすくなりますね。一方、おとなしめの地域もあります。プロジェクトの性格上、自治体の方にしかお話を聞けない状況のときもあります。そういうときは、ていねいに何度もお話を聞きに行きます。あと、地域の方との信頼関係を築くことが大切。何かイベントがあったときにお手伝いにいって、仲良くなって、そこでいろいろ話をお聞きする、そんなこともあります。

「関わり代(かかわりしろ)」が広い方がいい

梶村
私も一市民として、何かまちづくりや社会と接点を持ち、何かしたいと日々思っているのですが、一体どう接点を持ったらいいかがわからずにいます。

神庭
強い活動への想いを持つ人が参加できる場はけっこうありますが、それほどモチベーションが高くない人でも気軽に参加できるような場はあまりなくて、そういう場もしっかりつくっていかないといけないと思います。

ウェルビーイングについての対談の様子

原田
私はこの間、「千里キャンドルロード」を見に行ったのですが、中心メンバーの方は少ないと聞いていましたが、実施する日になったらものすごくたくさんの人が集まってきて驚きました。「関わり代(かかわりしろ)」のレベルというかレイヤーがたくさんあるのかなと思いました。

神庭
千里中央公園の取り組みの中でも、具体的な企画がイメージできている人もそうでない人もいます。企画をイメージすることができない人のなかには、具体的な企画を考えている人がいるならそれをお手伝いしたいという人もいます。

左近
そういう方たちを促していくのですか、それともそっとしておく?

神庭
こんな想いを持っている人がいて、こんな活動をするけど、めちゃめちゃ面白そうだから一緒にやってみたら?と紹介するようにしています。

左近
きっかけを与えるわけですね。

神庭
それがコーディネーターの役割だと思います。先ほどのクロストークの中でも出た「関係案内所」のような存在ですね。

企業も一市民であることを忘れずに

梶村
本当はまちづくりや社会と接点を持ち、何かしてみたいと思っている人は、実はたくさんいると思うので、まさに「関わり代」が地域中にあふれていたらいいのにと思います。では、皆さん最後に一言ずつコメントをお願いします。

終わりに ———
ウェルビーイングなまちをつくるために

ウェルビーイングについて話す様子

左近
乃村工藝社は今まで、つくって終わりという仕事が多かったと思います。展示関係もそうですし、商業施設も開業するまでが仕事ということが多いです。この千里中央公園のプロジェクトは、開業後にどう地域住民と一緒に公園づくりをしていくかということを視野に入れた案件です。つくり手と使い手が同じレイヤーにいる。そういう意識を持ちながら取り組んでいきたいと思っています。仕事のやり方を変えて行かないといけませんね。

原田さん

原田
これまでの商業施設は、お客様のニーズを調査して、それを設計の会社にお願いして具現化していました。これからは、地域の皆さんに入っていただいて一緒になってデザインしていく、ということを皆さまにお伝えしようと思っていました。企業も一市民であるという考え方を強く持っていたいと思います。地域と商業施設のつながりがもっと強くなっていくと、みんなの暮らしももっと豊かになります。

神庭さん

神庭
今日の皆さまのお話を聞いていて、企業が地域との関わりを持つ機会が増えている一方で、企業が地域に関わる難しさが浮き彫りになっていると感じました。そのときに企業がどのような立ち位置でいたらいいのかをしっかり整理していけたらと思います。その答えの一つとして今回、千里中央公園で取り組んでいる、コミュニティの中心に企業の人たちが飛び込んできて、そこで生まれたものを把握してサービスにつなげていく、そのステップがとても大事だと思っています。

梶村さん

梶村
私たち、乃村工藝社は一拠点、一施設をつくることが多いですが、そこにとどまると、そこからの広がりとか関係性、持続性へつながっていかないと日々感じていました。第1部の山崎さんの講演にあった“なんかいい感じ”は、みんなの子供の頃の原風景にもひとつのヒントがあるのではないかと思っています。まちとどう関わってきたか、ご近所とどう関わってきたか、そういう関係性を乃村工藝社が改めて仕掛けられたらと思い、京葉ガスさんの企業施設「KeiyoGAS Community Terrace(愛称 てらす)」で取り組ませていただきました。そうした事例も知っていただき、乃村工藝社の可能性を少しでも感じていただければと思います。

関連記事:脱ショールーム!地域とともに成長する企業施設「KeiyoGAS Community Terrace(愛称 てらす)

左から、梶村・神庭さん・原田さん・左近
左から、梶村・神庭さん・原田さん・左近

原田綾子さん
エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社 経営企画室 オープンイノベーション推進部。株式会社阪急百貨店に入社し博多阪急勤務などを経て2019年より現職。2021年4月に開設した大阪府河内長野市地域まちづくり支援拠点「イズミヤ ゆいテラス 河内長野」の立ち上げなど産官学連携の事業に携わる。現在は、千里中央公園再整備にかかる活性化事業を推進中。グロービス経営大学院修了(2018年)

神庭慎次さん
studio-L コミュニティデザイナー。大阪産業大学大学院修了後、NPO法人環境デザイン・エキスパーツ・ネットワークを設立。その後、建設コンサルタント企業で地域の調査や計画策定業務などに従事し、2006年より現職。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザイン等に携わっている。千里中央公園再整備にかかる活性化事業にもパートナーとして参画。

梶村直美
乃村工藝社 プランナー。空間をメディアとして捉え、企業や事業のメッセージを具現化するコミュニケーション企画を強みに、ブランディング視点でのソリューションを提案している。また、場の持続性を目的に、多様な方々との共創を通じた運用の仕組みづくりを自身の関心テーマとして業務やR&D活動に取り組んでいる。

左近 諒
乃村工藝社 営業/一級建築士、「千里中央公園再整備にかかる活性化事業」プロジェクトリーダー。自ら未来をつくり楽しむことをコンセプトに、西日本エリアの商業・余暇・福祉施設、地域活性化などに携わる。千里中央公園アートワークショップ「色をみつけて、色をつくる」でもプロジェクトリーダーとして関係各社・アーティストなどをとりまとめ全体統括を担当。

関連記事 「色をみつけて、色をつくる」 ―千里中央公園アートワークショップ
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