学びの場は、いつもひらかれている

佐竹 和歌子
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佐竹 和歌子

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、文化芸術やスポーツのイベント自粛を国が呼びかけたのは2月26日のこと。各地の博物館・美術館などの文化施設は、相次いで臨時休館を発表し、4月に発令された“緊急事態宣言”において休館期間の延長が余儀なくされています。

集客のための空間をつくる会社に在籍し、主に博物館や科学館の展示のプランニングを仕事としている私にとって心苦しい状況になりました。何が辛いかと言えば、目の前にミュージアムがあればリサーチと称して足を運び、展示やイベントに興じていた我が身だからです。しかし、それ以上に、来館者のために日々展示物や資料に向き合い館の環境を整え、企画展やイベントなど多彩な体験を提供している館の学芸員やスタッフのみなさまにおいては、私の辛さなど如何ばかりか想像に難くありません。

そのような状況下において、様々なミュージアムがオンライン上で趣向を凝らした取り組みをはじめました。動画で展示物を紹介する、館内をバーチャル案内する、学習教材を提供する、SNSでコミュニケーションをとるなど。こうした取り組みは、「今はまだ会えないけれど、ミュージアムってこんなに楽しいよ」という館の想いの発露ともみられ、私は感じ入っています。

浜松科学館『おうち DE みらいーら」の配信

なかでもひとつ、どうしても伝えたいことが。
3月に入ってからの外出制限で先行きが見えない不安に襲われた私にとって、光となった存在。
それは、浜松科学館の特別企画『おうちDEみらいーら』です。

『おうちDEみらいーら』は、浜松科学館臨時休館中の特別企画として自宅でできる簡単な実験や工作を、みらいーらスタッフが毎日紹介します。

公式サイトはこちら
『再生リスト』でYouTubeの『浜松科学館』のチャンネルにとんでみてください。

『おうちDEみらいーら』は臨時休館のはじまった3月3日から、ほぼ毎日配信されていています。今原稿を執筆している本日4月19日時点で第44弾まで発信されています。身の回りのものでできる工作や実験にはじまり、回を重ねる中で、身近な自然観察や浜松の産業との関わりについてなどテーマが広がりました。

『おうちDEみらいーら』に登場する“うえちゃん”をはじめとするスタッフのみなさんは、いつもやさしく元気に、見ている側に話しかけます。その内容は、「なぜか気になる」と目を釘付けにし、毎回毎回つい見入ってしまう。ここには見ているものを虜にする学びの場を作りだす秘訣があるはず。少しだけ考えてみました。

『おうち DE みらいーら』から感じる、学びの場づくり3つの秘訣

1 “答え”  や  “結果”  を教えてくれない。

まず、本題の前に小ネタを披露。つかみはバッチリです。日常生活の中に隠れている科学を、家にいながらでも出来る行為でドキドキ・ハラハラさせながら見せてくれます。そして「こたえはまだ教えません。やってみてね」と投げかけられる。「なぬ!やってみるか」と、のせられる私。身の周りのものでできることもひとつですが、この“ドキドキ・ハラハラ”がポイントなのかもしれません。

えてして学習の単元や原理を知りたいがために、ついつい正解を確認したくなるものですが、ここでは「とにかく面白いからやってみてね!」と、現象の“不思議さ”に目を見張ることを示してくれているような気がします。
…もちろん、ときには種明かしも。前に作った工作や実験結果も指摘してくれます。そんな連続性ある展開も楽しみのひとつです。

2 “リズム感”  ある編集って大事かもしれない。

毎回の編集方法にも工夫があります。シリーズにあわせたバックミュージック、時々入るにぎやかしの効果音やテロップ、味のあるイラストも、実験失敗までちゃんと見せるライブ感と相まって緩急つけたショートストーリーが完成されているのです。

締めくくりは「また、あした」。この“予告”というお約束。継続して更新することはとても大変なことと思います。それが、この時勢下では安心感につながりました。

3 誰かを “楽しませたい気持ち” は、連鎖する。

『おうちDEみらいーら』の登場人物は、科学館のスタッフのみなさんです。まるで目の前にいるかのように笑顔で話しかけてくれます。これほど、あたたかい気持ちになるのは、なぜなのでしょうか。

彼らは、開館したら科学館に来て欲しいとは言いませんし、科学館を案内することもしていません。身の周りの物事に目を向けて、科学実験と大仰にせず、日常をちょっと面白くするヒントを教えてくれています。「まわりを驚かせてみましょう」とか、「オフィスでも簡単にできますね」とか、一発芸まで、実験成功のコツも存分に教えてもらえます。

窮屈な日常だからこそ、日常を楽しくするささやかな企みとして心に残るのでしょう。誰かを楽しませたい気持ちは館のスタッフから視聴者のひとりひとりへ、少なくとも私には届きました。

学びの場は、いつもひらかれている

制限された行動下における不自由さや窮屈さからか、これからは、より一層リアルであることの価値が上がるであろうといわれています。オンライン上で生まれている取り組みは、来館への橋渡しをしてくれるのかもしれません。コロナ禍が終息してから問われるミュージアムの展示なんて、考え出したらキリがありませんが、それはこれからつくっていこうと思います。

ただひとつ想うこと。「臨時休館や閉館って物理的に閉じているだけで、本当はひらいているのではないかなぁ」と。学びたい気持ち、知りたいと思う気持ちに応えてくれるひとつにミュージアムがあって、世界中どこの科学館も博物館も、実はとんでもなくそばにいることが、今、確かめられた気がします。
また、来館するということに、これまで「行けば何かはわかる」と興味本位で訪れていたミュージアムですが、見たい対象や調べたいテーマといった目的意識がより鮮明になるのではと思います。加えて、行けば会える「身近な先生」の存在も。誰もが持つ好奇心、その背中をきっと押してくれるはず。

とはいえ、私自身、展示物たちに「やっと会えたね」って、早く言いたいのだけど。

・リンク先のウェブサイトのアドレスについては、当ページ作成時点のものです。
・掲載日4月30日時点で、臨時休館中です。詳しくは公式ホームページをご覧ください。

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佐竹 和歌子

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プランナー
地域に親しまれる場づくりを

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