展望台×公園=親子の楽園!?
-サンシャイン60展望台 てんぼうパーク-

野田 裕暉
野田 裕暉
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野田 裕暉

2023年4月18日に“新たな眺望体験を提供する空の公園”をコンセプトにリニューアルオープンしたサンシャイン60展望台 てんぼうパーク 。弊社は2016年の『SKY CIRCUS サンシャイン60展望台』(スカイサーカス サンシャイン60展望台)のリニューアルに続き、今回のリニューアルでは企画・設計・リーシング ・施工・ロゴ制作を担当しました。

本稿では、リニューアルの メインターゲットでもある子育て世代を代表して、2名の社内メンバーとその子どもたちを施設に招待。 プロジェクトメンバーとの座談会で「はじめて施設を体験する視点」と「新しい施設を企画・設計する視点」を合わせることで、集客空間としての展望台の新しい可能性を楽しく深堀ります!

★今回の座談会メンバーはこちらです!左から 髙橋珠恵(デザイナー/プロジェクトメンバー)、市川愛(プランナー/ゲスト)+長男(3歳)、野田裕暉(プランナー/プロジェクトメンバー)+長女(0歳)、村田小百合(プランナー/ゲスト)+長男(1歳)、迎町 万喜乃(デザイナー/プロジェクトメンバー)
※市川家と村田家はリニューアル後はじめての訪問

『非日常感』と『親近感』2つの顔がある展望台

野田
まずは施設を体験してみた率直な感想を教えて下さい。

村田
まずはビルの最上階に拡がる眺望と空間に対する驚き、他方で滞在すると感じられる子育てファミリーに向けた細やかな気遣いもあって、『非日常感』と『親近感』を一緒に味わえる施設だと感じました。『非日常感』という点で、てんぼうの丘と呼ばれている芝生の丘を感じさせる展望空間が秀逸でした。他の施設ではなかなか見られない空間ですよね。

 

髙橋
今回のリニューアルでは、ファミリー・カップル・ワーカー等、様々なターゲット層に向けて時期や時間帯、その時々のニーズに合わせて多様な価値を提供したいという施主の想いを実現するために、様々なデザインの方向性について協議を重ねてきました。

その中でコロナ禍においてもおでかけスポットとして注目を集めていた公園に着目して、様々な世代の人達が自然に集まり、自由に過ごすことができる屋内型のサードプレイスと展望台の組み合わせが今の時代感にマッチするだろうという議論を経て、「空の公園」をテーマにデザインを進めました。

 

てんぼうパークのイラストマップ

てんぼうの丘

気に入っていただいたてんぼうの丘は施設の見所の1つです。

リニューアル前は窓面の下部に設置されたカウンターによってガラス面との距離が離れていたのですが、今回のリニューアルで人工芝の丘を創ったことで、お客様が窓面ギリギリまで近づいて展望を楽しむことができるようになりました。その場で腰を下ろしたり、寝ころがったり、自由な姿勢で景色を眺めることも公園のような空間デザインの効果だと思います。

市川
人工芝の質感も凄くリアルですよね。

髙橋
ありがとうございます。最近の人工芝は再現性も高く、用途によってもさまざまな種類の製品があります。その中から今回の空間にふさわしいものを、時間をかけて選択しました。グリーンの色合いや枯草の混ざり具合など視覚的なものはもちろん、歩いたり、触れたりした時の柔らかさ、寝ころんだ時の心地良さなど質感にもこだわっています。

また、施設開業後に出来るだけ長く劣化しない耐久性、てんぼうの丘の曲線的なデザインを美しく仕上げるための施工面も重要な要素となります。デザイナーだけではどうしても見落としがちな部分を、社内の施工チームにも協力してもらい皆で議論を重ねて決定しました。

空間が子育てファミリーをおもてなし!

野田
展望台としての魅力的な空間づくりはもちろん、子育てファミリーに満足してもらうための空間づくりは今回のリニューアルで強く意識した要素の1つです。どのように感じられたのか少し詳しく教えてください。

 

村田
赤ちゃん・乳児・幼児と月齢の異なる子どものニーズに全部対応してくれる施設だと感じました。授乳室、キッズスペースだけでなく、子どもと一緒に動き回ったり、ゆったり過ごすことができる場所が色々揃っているので、兄弟がいる方や子どもの年齢が異なるママさん同士も連れ立って長い時間を楽しめそうです。

ママ視点で取り上げたいのが授乳室です。設備が充実していて本当に心強いなと感じました。私は自分の子どもと一緒に池袋のような繁華街にお出かけする時に、ミルクをどこであげようかいつも迷ってしまいます。てんぼうパークの授乳室は充実した設備に加えて空間のも素敵なので迷ったときに駆け込みたくなりますね。

きっと“子育て”についてよくわかっている方がつくってくれたので、自分達のような子育てファミリーも施設から受け入れられているんだなと実感できました。

私の経験だと都心のテーマパークやおでかけスポットは3歳以上の子どもはウェルカムだけど、それ以下の小さな子どもは遊び方が難しいなと感じることが多い印象です。ただ、まして、兄弟がいると、どちらも満足させるのは難しいので小さな子どもは仕方ないかとあきらめる気持ちも出てきますよね。

ですが、てんぼうパークは公園のように色々なシチュエーションで施設を利用しても人に気を使うことなく受け入れてもらえる空気感があって嬉しかったです。

 

迎町
子育てファミリーへの想いは、我々はもちろん施主のこだわりが強かったポイントです。特に授乳室は拘り抜きました(笑)。子どもに関わる環境づくりを考える上で、その分野のプロフェッショナルである、コンビウィズ株式会社*1さんと弊社TeamM(チームエム)*2のメンバーに助言してもらいました。

デザインのアプローチとしてサンシャインシティ全体に数か所ある既存の授乳室の課題を取材して、それらの解決策を集約した上で、てんぼうパークの授乳室に落とし込みました。
展望空間との調整で満足な広さは確保できなかったのですが、必要なアメニティ機能を揃えることは出来ました。それと、授乳室としての空間の魅力を高めるために、授乳用の機能的な椅子ではなくソファーを配置する等、居心地の良い環境づくりは強く意識したポイントです。

また、昨今の育児環境を踏まえて、パパママ関係なく授乳室を利用してもらうためにピンクやブルーではなく、淡いペールトーンの色味でてんぼうパークとの統一感を出せるように工夫しました。

公園の弱点を克服した、悪天候でも楽しめる屋内型公園

野田
市川さんは施設を体験してみて如何でしたか?

市川
私は前回のリニューアルに関わっていたので、その時の経験を交えてお話ししますね。まず、集客施設としての展望台の大きな課題は悪天候時に集客数が大きく落ち込むことだと思います。

前回のリニューアルではその解決策として、デジタル・インタラクティブコンテンツの黎明期だったという時代性を踏まえてデジタルをテーマにしましたが、今回は公園をテーマにして屋外の公園の弱点を逆手にとることで「天気が悪くても楽しめる屋内型展望公園」という良い施設が出来たなと思いました。

と言うのも、子どもが生まれると公園に行く機会が増えるんですね。その中で、夏や冬だと子どもは元気に遊んでいても、親は寒くて見守っているのが大変だし、暑いと日焼けするし虫刺されもあって、正直苦行だなと感じることもあります。それと私は今妊娠中なので、自由に動くことが難しく、子どもが見えないところまで一人で行ってしまうのは心配だったりします。

そういった公園へのネガティブな想いをてんぼうパークは解消してくれるので、子育て中のパパママにおすすめしたい施設ですね。

野田
確かに前回のリニューアルとの比較は面白いですね。

前回は展望台全体を複数のゾーンに分割して、それぞれのゾーンにアトラクション・エンターテインメント要素の強いコンテンツを配置しましたが、今回は公園という1つのテーマを感じやすいシンプルな空間構成にしています。

それから、デジタルの役割も大きく変わっていると思います。前回のリニューアルではサイネージやVR等の視覚的なデジタル技術を多く取り入れましたが、今回は音や香り等の視覚以外の五感を刺激する技術を中心に取り入れています。さらに、夜景を楽しんでもらうために日没後は照明をギリギリまで落としています。

「景色を楽しむ」という展望台の原点に立ち返って施設の在り方を検討したい、という施主の想いをカタチにした結果が、前回との違いに大きく表れているのかもしれませんね。

市川
私は息子とリニューアル前の展望台に遊びに行ったことがあるのですが、気に入ったコンテンツを繰り返し楽しむ一方で、VRなど年齢的に制限がある体験もありました。あの時と比べると、てんぼうパークでは息子が自由に散策している様子だったので空間全体を楽しんでくれているなと感じました。息子は特にクッションが3段に積まれている空間がとても気に入っていた様子でした。

迎町
今回のリニューアルでは様々なバリエーションのシーティングスペースをデザインしました。その中で一番気にしたことは安全性です。大人も子どもも座る場所でありながら、遊ぶ場所としても使って欲しかったため、安全性への配慮から遊具メーカーと一緒に設計を進めました。

また設計の中で安全上デリケートな存在である赤ちゃんへの対応として、年齢制限1歳半のハイハイスペースを設けています。そして、1歳半以上の子ども達の遊びの受け皿として、クッションやネットを活用したシーティングスペースをバリエーション豊かにデザインしました。

展望台は街と自分を繋いでくれるもの

最後にお二人にお聞きしたいのですが、東京に住んでいる方が都内の展望台に行った時に思ったこと、感じたことを教えてください。

村田
私は展望台と聞くと観光名所のイメージが強くて、普段東京で生活している自分が行く場所ではないというか、子どもとおでかけするスポットとして認識していませんでした。

ただ今回実際に来てみると、エレベーターの扉が開いてはじめて目に飛び込んできた景色に圧倒されました。東京に住んでいる自分でも非日常な気持ちになりましたし、童心に帰った気分で景色や空間を楽しめたと思います。

市川
東京の展望台というと、デートスポットとしての思い出が浮かびますが、今回のリニューアルで、てんぼうパークは日常の中の非日常として、だれもが気軽に様々なシチュエーションで訪れることができる場所になったと感じています。

今日は家族で楽しませてもらいましたが、仕事で池袋に来る機会があったら気分転換にカフェで一休みするなど、まさになじみの公園のように活用できそうです。

 

野田
私も村田さんと一緒で、「展望台は観光地でとりあえず一度登ってみる場所」というイメージがありました。

ですが、プロジェクト期間中に池袋の街とこの展望台に足繁く通う中で、展望台は街と自分を繋いでくれるものだと思うようになりました。展望台から見える池袋の街並みとその他のエリア(渋谷、新宿等)同士の距離感や位置関係、街を歩いているだけでは気付かなかった神社や公園の存在、その大きさを俯瞰で確認することで街に対する解像度が高まり、池袋のことをもっと知りたい!色々な場所にもっと行ってみたい!というモチベーションが高まると共に街への愛着が強くなったように感じています。

てんぼうパークは池袋の街とのつながりを強く意識しています。4つの公園を核にしたまちづくりを進めている豊島区内の“芝生のある気持ちのいい公園”に発想を得て、何度でも訪れたくなる、居心地の良い開放感あふれる公園のような施設を目指しています。

今日のお二人のように東京を生活や仕事の拠点にしている方だからこそ、展望台に登った時に感じられる新しい気付きや発見があると思います。親子連れはもちろんですが、老若男女すべての方が楽しめる空間になっていると思いますので、機会があれば色々な方を誘って頂いてまた遊びに来て下さいね。お二人とも今日は本当にありがとうございました。

*1
「コンビウィズ株式会社」
子育て中のパパ・ママのお出かけを快適に。お子さま連れの楽しいお出かけのサポートや親子が安心できる保育サービスを提供します。
 https://www.combiwith.co.jp/

*2
「TeamM(チームエム)」
子どもにも大人にも心地よい空間づくりを目指して、乃村工藝社の育児休暇を経た社員が参加するチームです。企画、デザイン、プロジェクトマネージャーなど様々な専門性を活かし、未来の子どもたちのための「場」と「しくみ」をつくります。
https://www.teamm.jp/jp/

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