「あの紫式部と
福井県越前市の意外な関係!」
後編 「恋」のゆかりで丹南地域をめぐる

藤居 重雄
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藤居 重雄

福井県越前市「紫ゆかりの館」ホームページURL


展示パネル「【若紫】美しい少女(若紫)を垣間見て、恋の想いを募らせる光源氏」より

その土地ならではの歴史・文化を博物館や展示施設に昇華させるプランナーである私が、今回担当したのは「紫ゆかりの館」。地元に愛される「紫式部」の生きた世界を多くの方に感じてもらえるような施設を目指しました。【前編】に引き続き【後編】では、「恋」をテーマに館を起点に市内から広域の丹南エリアの観光を楽しむ「周遊のストーリー」を紹介します。

「恋」の成就を願って、館・公園・市内から丹南地域をめぐる

「紫ゆかりの館」は、誘客促進につながる観光施設として、館を起点に公園、まちから更に広域の丹南周遊へといざなう役割を担っています。丹南広域観光協議会がまとめた「丹南地域周遊・滞在型観光推進計画」には、紫ゆかりの館改修のもとになる指針が示されていて「紫式部のつながりから、丹南エリアの恋スポットや宿場町への誘導を行う」とあります。この指針をもとにして越前市とも協議を進め「恋」のゆかりで館・公園・市内と広域へいざなう「恋」の周遊3ストーリーを楽しんでいただくことになりました。

「恋」の周遊3ストーリー
❶【館を起点に】恋の体験プログラム「あなたはどの姫君タイプ」
❷【公園につなぐ】「源氏物語ゆかりの四季の草花」
❸【市内から広域へ】歴史・文化とふれあう「武生まちなか散策」と


展示パネル「【帚木】控えめで慎み深い空蝉に心ひかれる光源氏」より

❶【館を起点に恋の体験プログラム「あなたはどの姫君タイプ」】
「あなたはどの姫君タイプ」は、「恋」が切り口の体験プログラムです。
タッチモニターで質問に答えていくと、自分に似たタイプの「源氏物語」の姫君タイプ
が特定されます。小物棚に短冊(有料)が設置されていますので姫君の短冊をひくと、ゆかりの和歌と診断結果として恋愛成就のアドバイスが書かれています。いつの時代もかわらない「恋」をとおして、源氏物語の姫君と自分が結び付けられる体験です。このプログラムの監修者の山本淳子先生は「源氏物語の最大の魅力はキャラクター豊かな登場人物にあり~(中略)~いつの時代の読者も自らの境遇を登場人物に投影し、ともに悩み、共感しながら読み継いできた」※2と述べられています。来館の記念に、女性はもちろん男性にもお薦めの体験です。

※2 恋の体験プログラム「あなたはどの姫君タイプ」の監修者山本淳子先生(京都学園大学教授)が執筆(共著:林真理子)された「誰も教えてくれなかった『源氏物語』本当の面白さ」発行:小学館 に『源氏物語』女君テストの内容が詳しく紹介されています。

❷【公園につなぐ「源氏物語ゆかりの四季の草花」】
紫式部公園には源氏物語に描かれた情景や登場人物にちなんだ草花を植栽していますので、園内を散策しながら四季の花々をお楽しみ下さい。前項で紹介した「姫君短冊」には、紫の上はムラサキ、朧月夜はサクラ、夕顔はナデシコなど、姫君ゆかりの草花を紹介しているので、花々から「恋」のゆかりに想いを馳せることができます。※3館内の「❺しるべの間」では、幅5mの巨大イラストマップで「紫式部公園」の楽しみ方を紹介しています。平安時代に浸れるフォトスポットや歌碑など、いろいろな魅力が絵巻物のように一望できます。ご覧いただいてからの公園利用がお薦めです。

※3 植栽の関係で全ての姫君ゆかりの草花が植栽されていない場合もあります。

❸【市内から広域へ歴史・文化とふれあう「武生まちなか散策」】
越前市内「武生まちなか散策」の魅力は、まちの景色から古代・中近世・近現代の時が折り重なった歴史文化の奥深さが感じられることにあります。
古代は、奈良時代より越前国府が設置され、現在も国府ゆかりの国分寺や総社大神宮が伝わっています。中世は、「越前打刃物」です。千代鶴神社には、京の刀匠「千代鶴国安」が刀を打つ水を汲んだと伝わる井戸が残されています。近世の江戸時代は、本多富正がまちの基盤を整えました。その頃より武生は、関西方面から北陸地方への物資の中継点としても栄え、商人たちの蔵が立ち並びました。現在は白壁の街並みが整備され、「蔵の辻」としてギャラリーやお店が並ぶおしゃれな新名所となっています。近現代は江戸時代後期に起源をもつ「越前箪笥」です。伝統的な町家スタイルの家具店や工房が軒を連ねる「タンス町通り」が見所です。皆さんご存じの絵本作家いわさきちひろや児童文学者加古里子は越前市の出身です。市内に「ちひろが生まれた家」記念館と、かこさとしふるさと絵本館「砳(らく)」があります。親子でも訪れたいスポットです。

「❺しるべの間」には、「武生まちなか散策マップ」や観光PR映像紹介、各種案内チラシも常備しています。皆さんも、武生のまちをめぐりませんか?越前で成長した紫式部のように、心が豊かになる出逢いがあるかもしれません。

「武生まちなか散策マップ」全体

❸【市内から広域へ「恋のパワースポットめぐり」で恋愛成就】
皆さんは「恋」のパワースポットといえばどんな所を連想されますか?関東圏の方なら、飯田橋の東京大神宮や浅草の今戸神社。関西圏の方ですと、京都の地主神社や島根県の出雲大社を思い浮かべるかもしれません。都心部や観光地の格式ある神社が中心で、多くの観光客が恋愛成就を祈願して足早に去っていきます。デジタル大辞泉でパワースポットは「霊的な力が満ちているとされる場所」と記述されています。神社がパワースポットにあがるのは人智を超えたものにあやかりたいという心理が働いているのかと思います。

しかし、現代人には全て神秘の世界にゆだねるのではなく「恋」にゆかりの物語や伝説を通じて自らの境遇に投影したり、共感するなど、何か心が元気になるエネルギーがもらえ、自然や文化にゆっくり触れてリフレッシュできる場所であって欲しいと思いませんか?実は、私がお薦めする「丹南めぐり」の魅力はここにあります。かつて紫式部が「恋」に悩みながらも越前の歴史、文化に触れて成長を遂げたように。また「源氏物語」の姫君たちの生き様に共感するように。紫式部にあやかって、多様な恋のゆかりの物語に彩られた「恋」のパワースポットを巡りながらのんびり滞在して、丹南地域の文化と自然、海山の幸を楽しんでは如何でしょうか?

次の項では、「恋」のパワースポットめぐりを紹介します。

●越前市内のお薦め「恋」のパワースポットめぐり
●丹南地域のお薦め「恋」のパワースポットめぐり

紫ゆかりの館リーフレット「丹南地域をめぐり 恋愛力を上げる」より

●越前市内のお薦め「恋」のパワースポットめぐり
越前市内の「恋」のパワースポットめぐりは「万葉の里 味真野苑(あじまのえん)」からはじまります。万葉集ゆかりの地でもある越前市の味真野地区に整備された市民公園です。この地は平城京の都から越前に流された中臣宅守(なかとみのやかもり)と都で宅守を思う狭野弟上娘子(さののおとがみのおとめ)の恋の歌の舞台として知られています。二人の間で詠まれた情熱的な歌は万葉集に63首も残されており、詳しくは「万葉館」で紹介しています。味真野苑内には二人の「相聞歌碑」が建立されており、広大な敷地の苑内では四季折々に咲く花とともに万葉集に歌われた植物をゆったりと鑑賞できます。


越前市ホームページより転記「万葉の里味真野苑」 

そしてここ味真野苑にはもう一つ「恋のゆかり」があります。
“1500年前、継体大王(けいたいだいおう)と照日の前(てるひのまえ)は味真野の地で仲むつまじく暮らしていましたが、大王が天皇として迎えられた際に、手紙と花筐(はなかご)を照日の前に残し都へ上られました。照日の前は大王が恋しいあまり狂女となって都に向かい天皇の行列の前で花筐を持って美しく舞い、天皇は再会を喜び、都でも仲良く幸せにくらした。”という物語が室町時代に世阿弥が作った謡曲「花筐(はながたみ)」です。二人の銅像が仲睦まじく佇んで見つめているエリアは、平成30年(2018)に「恋のパワースポット」として整備されました 。


越前市ホームページより転記「万葉の里味真野苑」

●丹南地域のお薦め「恋」のパワースポットめぐり
更に視点を丹南地域に広げると、あちこちに「恋」のゆかりのスポットが存在します。
ここで丹南地域をご存じない方のために、丹南地域は西から順に越前町、越前市、鯖江市、南越前市、池田町の5市町で構成する地域です。紫ゆかりの館の「❺しるべの間」には、「丹南地域周遊マップ」や観光PR映像紹介、各種案内チラシも常備していますのでご覧ください。

越前市の「紫式部公園」と「味真野苑」を起点にして、ぐるっと西から東に順番にめぐるイメージでご紹介します。「恋の社」「恋する灯台」「縁結び夫婦杉」「結びのチャイム」「かずら橋」の5つのパワースポットです。

1つ目「恋の社」は、越前海岸を代表する景勝地の呼鳥門(こちょうもん)すぐそばにある「愛染明王洞・水仙廼社(あいぜんみょうおうどう・すいせんのやしろ)」です。恋愛成就、家庭円満をはじめ、男女間の煩悩を救い和らぐ相を約束する神として、地域の人々に親しまれている社です。※4
2つ目は、越前海岸の越前岬(みさき)灯台の「恋する灯台」です。越前岬灯台は、日本全国の灯台の中からロマンスの聖地にふさわしい灯台として認定されています。越前海岸一帯の日本海の荒波に削られた岩礁の風景と冬に咲き誇る越前水仙の一大群生地の放つ香りは、恋する2人にとって甘美な時を過ごす特別な場になることでしょう。※5

※4 詳しくは「えちぜん観光ナビ」
※5 詳しくは「恋する灯台プロジェクト」HP

3つ目「縁結び夫婦杉」は、越前二の宮でもある「劔(つるぎ)神社」の拝殿の手前にあります。まるで夫婦のように2本の杉の根元が繋がっていることから、縁結びにご利益があるとされています。※6
4つ目「結びのチャイム」は、鯖江市西山公園中腹の「結びの広場」にあり、鯖江市街を一望するビュースポットとしても知られています。モニュメントにウィンドチャイムが吊るされており「愛のピース(有料)」に同封されているメダルをチャイムに投入すると神秘的な音色が響き、心を癒しつつ二人の絆を深めるひとときを過ごせます。「愛のピース」は公園管理事務所、西山動物園、道の駅西山公園で購入できます。※7
5つ目「かずら橋」は、池田町土合皿尾の足羽川渓谷にかかる橋で、全長44m・幅1.8m・高さ12mの全国的にも珍しいカズラのつり橋です。揺れもありスリル満点のこの橋の上で愛を誓うと永遠に幸せになれると言われています。(有料)※8

※6 詳しくは「Dearふくい」
※7 詳しくは「ふくいドットコム」
※8 詳しくは「ふくいドットコム」
 冬期(12月~3月頃)や荒天時は通行止めのため、問い合わせ先の「そばの郷 池田屋」 0778-44-6878にご確認ください

以上、恋や縁結びにまつわるいろいろなパワースポットは、5か所すべてを巡ると最強のパワーとなるかもしれませんが、皆さんの旅のニーズに合わせて、丹南地域の観光スポットとセットで旅程を考えていただけたらと思います。先にご紹介した「丹南地域周遊・滞在型観光推進計画」では、丹南地域に特徴的な伝統工芸やものづくりを通じた本物の学びや心のリフレッシュ、加えて雄大な風景や自然との触れ合い、町なか散策・歴史巡りを広域周遊の旅程に取り入れていただくことを提案しています。
若年層の女子旅、カップル、グループ:「恋」のパワースポット巡りとものづくり体験
ファミリー層:子どもも楽しめる、西山公園のレッサーパンダや「ちひろが生まれた家」記念館・かこさとしふるさと絵本館「砳」など
シニア層:町なか散策・歴史巡りや雄大な風景や自然との触れ合いなど

また、全ての層に共通ですが、越前温泉、越前ガニ・イカ、越前そばなど、越前ならではの温泉と食の魅力は旅程の基本に組み込むことをお薦めします。

●伝統工芸やものづくり体験
・越前漆器(うるしの里会館)
・越前和紙(越前和紙の里・紙の文化博物館・体験工房パピルス館)
・越前打ち刃物(タケフナイフビレッジ・越前刃物会館)
・越前焼(越前陶芸村・越前古窯博物館)
・越前箪笥(越前箪笥会館)
・鯖江の眼鏡(越前めがねの里・めがねミュージアム)

●雄大な風景や自然との触れ合い
・越前海岸/ツリーピクニックアドベンチャー/今庄365スキー場(キャンプ、スキー)等

●町なか散策・歴史巡り
・今庄宿/越前市町なか/河野北前船主通り/大瀧神社/劔神社/鉄道 等

いかがでしたしょうか?
館・公園・市内から広がる「丹南めぐり」の魅力は、多様な恋のゆかりの物語に彩られた「恋」のパワースポットを巡りながら、京の都を唯一離れ住んだ若き紫式部が感じたであろうことを想像しながら、丹南地域の文化と自然、海と山の幸、伝統工芸品をゆっくり滞在して楽しんでいただくことに尽きると思います。そして、皆さんの旅が、越前で成長した紫式部のように、何か気づきを得る豊かな旅になることを願っています。


展示映像ソフト「百花繚乱-紫式部が出逢った越前国府-」より

紫ゆかりの視点から、輝く光にいざなう

最後に「観光は、その土地の輝く光を観ること」と言われますが、その地域の数だけ多様な「輝く光」が存在すると言えます。「紫ゆかりの館」は、若き紫式部の視点から越前国府がおかれた越前市の輝く光にいざなうお話しでした。皆さんなら、どんな視点から、どんな空間とストーリーでその土地の輝く光を伝えますか?

事業主体の越前市 産業環境部 観光誘客課の皆さま
監修いただいた、福嶋昭治先生、山本淳子先生、関係者のみなさま
弊社プロジェクトメンバーの皆さま、心より感謝を申し上げます。

参考図書:
「源氏物語 紫式部と越前たけふ」著:福嶋昭治 発行:紫式部顕彰会(越前市)
「誰も教えてくれなかった『源氏物語』本当の面白さ」著:山本淳子(共著:林真理子)
発行:小学館

施設名:紫式部と国府資料館 愛称:「紫ゆかりの館」
所在地:〒915-0847 福井県越前市東千福町21-12
開設日:2021年4月23日
事業主:越前市
種 別 :常設展示施設
展示面積:250㎡
建築・展示改修設計・展示製作設置:株式会社乃村工藝社
プロデューサー:藤井達也
製作管理:末崎武、長谷川聡子
設計責任者:築山知代
デザイナー:築山知代、堀慶子
プランナー:藤居重雄、末田ゆか
建築改修設計:丹田勝己、北川昌幸
映像ソフト:株式会社アクロス
グラフィック:株式会社スタジオアーツ
造形物演示:有限会社竹中造形美術
竣工写真撮影:吉田祥平 amu photograph

 

プロファイル
藤居 重雄
クリエイティブ本部 プランニングセンター 企画4部 第10ルーム プランニングディレクター

乃村工藝社で20数年以上にわたって行政の文化系展示施設、企業の展示の分野でキャリアを重ねてきました。
事業初期段階の調査業務から、基本構想、基本計画、基本・実施設計、運営支援まで業務経験を有します。特に、重要文化財を扱う歴史系展示施設から、文学系展示施設(万葉集、俳句他)、防災啓発施設、城郭、世界遺産・日本遺産のガイダンス施設、企業博物館など幅広い分野を手掛けています。お客様とともに地域や組織の皆さまが元気になる空間・環境づくりをお手伝いさせていただきます。


展示映像ソフト「百花繚乱-紫式部が出逢った越前国府-」より

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藤居 重雄

藤居 重雄

チーフプランナー
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