企画展のつくり方
佐賀県立宇宙科学館
《ゆめぎんが》10年以上続く『ビーコロ展』の秘訣

乃村工藝社 施設運営事業
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乃村工藝社グループは総合空間プロデュース企業として、空間の設計・施工だけでなく、開業後の施設の運営も手掛けており、ビジネスプロデュース本部 運営事業課では、博物館、科学館、美術館などの文化施設を中心に、調査研究・学芸部門を含む、施設全体の総合的・包括的な運営管理を行っています。

施設に所属するさまざまな専門知識を持ったスタッフが、日々、展示テーマをどのような想いで企画し、来館者の皆さんに伝える工夫をしているのか、その独自の視点を切り取るインタビュー記事「企画展のつくり方」をシリーズ化します。
これまでのシリーズ記事:企画展のつくり方もりおか歴史文化館江戸時代の盛岡や人の魅力をおもしろく発信!

シリーズ第4回目は、佐賀県立宇宙科学館《ゆめぎんが》」。人と科学をつなぐコミュニケーション施設として1999年7月に佐賀県武雄市に開館以降、四半世紀にわたり佐賀県内のみならず、九州から全国まで広く親しまれ、累計約555万人(2025年1月時点)もの来館者が訪れる九州を代表する科学館です。
※当社は2006年から「指定管理者」の代表として、現在は株式会社マベック様と共同運営

緑豊かな武雄温泉保養村内にそびえる巨大な宇宙船のような特徴的な施設の中に、3つの常設展示ゾーン(佐賀発見ゾーン・地球発見ゾーン・宇宙発見ゾーン)とプラネタリウム・天文台があります。開館25周年となる昨年(2024年)、メインの常設展示「宇宙発見ゾーン」を全面リニューアルし、宇宙をより身近に体感できる参加体験型の展示ゾーンへと生まれ変わりました。リニューアル効果もあり、2024年度の年間来館者数は25万人を超える見込みです。

佐賀県立宇宙科学館《ゆめぎんが》「宇宙発見ゾーン」|乃村工藝社実績 ※開業時より常設展示ゾーンの企画・デザイン・設計施工まで担当

今回ご紹介する春の企画展『ビーコロ展』は、13回目を迎える人気の企画展です。館の公式XやYouTubeチャンネルでも話題となり、全国ネット番組にも取り上げられ、地元だけでなく全国にもファンが広がっています。これまで長い期間、企画展『ビーコロ展』を継続できている秘訣を探るべく、企画展担当のお二人に運営事業課のメンバー、ノムログ編集部が取材した様子をご紹介します。
*佐賀県立宇宙科学館《ゆめぎんが》公式YouTubeチャンネル

【企画展担当者】
佐賀県立宇宙科学館
児玉 尚之さん(写真右)
2003年 佐賀県立宇宙科学館勤務開始
2006年 乃村工藝社に移籍し、佐賀県立宇宙科学館に引き続き勤務。「ビーコロ展」の企画発案者であり、新たな企画で装置の制作を続けている。夏休みの「自由研究道場」など、数多くのヒット企画を送り出すとともに、ショーのステージにも立ち続け、同館のファンを増やす立役者となっている。

北田 大樹さん(写真左)
2019年 佐賀県立宇宙科学館勤務開始
高校時代に「ビーコロ展」に出会い、「ビーコロハイスクール」に出展したことを機に、アルバイトとして同館に勤務。同館就職後に「ビーコロ展」を担当。その他、実験装置からYouTube動画まで、自ら企画・制作を手掛ける。2020年に制作した展示装置「ペンデュラムウェーブ」はXの再生回数280万回を超えた。

【インタビュアー】
株式会社乃村工藝社
ビジネスプロデュース本部 第三統括部 施設事業運営部 開発推進課
森 美樹 プランニングディレクター
日野 夏香 

文:広子(ノムログ編集部) 撮影:伊藤 雄飛八木 和(ノムログ編集部)

 佐賀県立宇宙科学館《ゆめぎんが》|春の企画展『ビーコロ展』とは

日野
今年の2025年3月から始まる「ビーコロ展」で、第13回目となりますが、まずは「ビーコロ展」を始めた経緯について教えていただけますか?

児玉さん
「ビーコロ」とは、“ビー玉コロコロ”を略した造語で、もともとは「ピタゴラスイッチ」のような企画展ができないかということでスタートしました。とても好評で、続けているうちに今年で13回目の開催となりました。

春の企画展「ビーコロ展」2011~2024

「ビーコロ展」2024


夏の企画展に比べて予算の少ない春の企画展としては異例のヒットを続けて、開催期間中の入館者数も年々増加していますし、年間入館者数も押し上げてきましたね。

春の企画展観覧者数は2011年の第1回ビーコロ展開催以降2倍以上増え、2024年度には過去最高に
 2024年度は年間来館者数も新型コロナウイルス以前の水準に回復。

児玉さん
そうなんです。ビーコロを行う前から今年までの春の企画展開催期間(春休みからゴールデンウィークまで)の来館者数の推移を見てもらうと、以前は3万人弱だったのが徐々に増え、2019年で初めて6万人を超えることができました。その後、新型コロナウイルスの影響でガクッと下がりましたが、昨年(2024年)は、「宇宙発見ゾーン」のリニューアルとの相乗効果もあり、6万人を超え、過去最高の来館者数となりました。

日野
「ビーコロ展」がこれほどまで長く続けられている要因は、ご自身ではどのようにお考えでしょうか?継続するために、特に意識されているポイントなどありますか?

児玉さん
正直に言うと…毎年の「ビーコロ展」の企画も、実際にビーコロの装置を作るのも本当に大変ではあります。でも、実際にお客様が楽しんでいる様子をみると、また来年も頑張ろう!と思い、ここまで続けてこられているように思います。毎年、有難いことに、来館者がどんどん増えていっていることも現場にいながら実感していて…

北田さん
春には毎年、必ず来てくれるお客様もいらっしゃいますよね。いつも、また来てくれているなぁと嬉しく思っています。とはいえ、12年間続けているので、常連さんも世代交代しています。

基本的に、「ビーコロ展」のメインの来館者層は小学生低学年となるのですが、この12年間で(おそらく)小学校も卒業され、新たな世代に入れ替わった印象があり、長く続けてきたことが実感されて感慨深いです。


来館者のお顔も覚えていらっしゃるのですね。私は、「ビーコロ展」第一回から見ているのですが、館のスタッフと来館者の方との距離感が、他の施設と比べてとても身近な印象があります。

北田さん
そうですね、特に意識しているわけではないのですが、毎年来て下さるので、自然と顔は覚えてしまいます。「ビーコロ展」開催期間中には、お客様の前で装置を改修することもあるので、直接コミュニケーションを取りやすいのかもしれません。中には、学校の自由研究で作ったビーコロ装置を、わざわざ見せに持ってきてくれるお子さんもいます。


「ビーコロ展」の固定ファンだけでなく新たな世代のファンも増えているのですね。お二人はビーコロを取り上げたTV番組にも出演されていますが、反響はいかがでしたか?

北田さん
以前は、九州圏内で佐賀や福岡、長崎、熊本からの来館者が多い印象でしたが、最近では、滋賀、徳島や東京、千葉など関西や関東圏からもわざわざ「ビーコロ展」のために毎年来て下さるファンの方も増えてきて、メディアの影響の大きさを実感します。

日野
「ビーコロ展」を開催する館も出てきましたね。

児玉さん
はい、乃村工藝社が運営する「浜松科学館」では、「ビーコロ展」をこれまで2回開催して、来館者の子供たちから「次はいつやるの?」と聞かれるほどの人気企画になっているそうです。最初は装置を貸し出していましたが、いまでは浜松科学館のスタッフがすべて手作りしています。ものづくりの楽しさも広がっているのがうれしいですね。

唯一無二の企画展のつくり方|来館者目線で考え、自らも楽しむ


毎年の「ビーコロ展」は、どのようなスケジュールや体制で企画・製作をしているのでしょうか?

児玉さん
毎年、3月のオープンに向けて前年11月頃から製作を始めますが、企画については「ビーコロ展」開催期間中にはすでに、「来年どうしようか…」と次の年の企画について話しはじめています。

北田さん
今年は、我々二人に加えて研究交流グループのメンバー7名で16台のビーコロ装置を製作しました。私と児玉さんが所属する「地球班」だけでなく、「佐賀班」、「スペース班」のメンバーも加わって、1台を一人で完成させます。企画展のテーマは我々二人で相談しながら決めてメンバーに共有しますが、1台ごとのテーマやストーリーは個人に任せていいるので、作り手の個性が出ます。

児玉さん
装置を完成させるのは大変ですが、毎年どのチームのスタッフからもやりたい!と意欲的に参加してくれるのでとても助かっています。

日野
北田さんは、普段から“ビーコロメモ”を持ち歩いていらっしゃるそうですね。大きなテーマくらいはメンバー内で共有するけれど、何を作るかは出来上がるまで共有しないとは、静かなる戦いのようで(笑)

皆さん、アイデアはいつ考えたり思いつくことが多いのですか?

北田さん
「ビーコロ展」の開催期間中はいつもお客様の様子を見ています。そこからヒントを得ることは多いですね。

ただ本当に毎日の様にビーコロのことを考えているので、特段苦でもなく…というよりも、むしろ休みの日も早くビーコロ作りたい!という気持ちの方が大きくて…(笑)

2017年 北田さん製作 ビーコロ装置「わりばしランド」

森さん
ビーコロと共に歩む日常、というか、人生そのものですね。

12回開催していても、常に新しい装置が生み出され続けているのがすごいです。

北田さん
以前は、「ビーコロ展」に出展する装置の半分ぐらいは、過去に評判の良かったものを使用していましたが、「これ、去年もあったよね?」というお客様の声が聞こえてきて…それだけ期待して来てくださっていることがわかって、今では毎回すべて新たなビーコロ装置を製作し展示しています。


変わったことと言えば、第1回の「ビーコロ展」には、加速度の法則やてこの原理などの説明もあったと思うのですが…

児玉
説明パネルは、子供に説明したり気付かせたりしたいという気持ちからか、親御さんには評判がいいのですが、説明文が多すぎると子どもの想像力を妨げてしまうような印象がありますね。今は、説明よりビー玉の動きの観察に集中してもらう方向にシフトしています。制作する装置の数がだんだん増えてきて、展示スペースが足りないということもありますが(笑)、『自らの体験を通じて気づきを得る』ということを大事にしています。

北田さん
「体験」で得られる楽しさや喜びが、結果としていつかの「学び」に繋がればいいと思っています。小さい頃は特に、ビー玉が転がって面白かった!嬉しかった!そういう記憶を与えられることが大切だと思います。理科や科学への苦手意識でなく、楽しい思い出を持ち帰ってもらいたいです。

児玉さん
自分たちも家にあるもので作れるかもしれない、やってみたい、と思ってもらえたらうれしいですね。昔の子どもは、ものづくりや工夫の楽しさを教えてくれる人が身近にいて、そのまねをして遊んでいましたよね。そういう役割を果たせたら、という思いもあります。


一見、自分たちの作りたいものをつくっているようでも、学びの主役である子どもたちの反応をよく観察して進化させていて、しかし根底にある思いは変わらないのですね。10年以上も「ビーコロ展」を継続し、年々人気を博している理由はそのあたりにあるのかもしれないですね。

企画展のチームビルディング|やりたいことを自由に!即実行できる環境


ここからは、「ビーコロ展」に欠かせないお二人について伺っていきたいと思います。

児玉さんは、ビーコロの発案者でいらっしゃいますが、当時から変わらずに大切にされていることはありますか?

児玉さん
「ビーコロ展」の発案当初、自分でもつくれる親しみやすい企画展を目指したいと考えていました。お金をかけなくても、どこにでもあるもので手作りできること、こどもも大人も関係なくだれもが真似できる、やってみたい!と思えるような心理的な身近さを、今でも大切にしています。

もともと自分は工作好き、ものづくりが好きだったので、NHKの番組「ピタゴラスイッチ」を見て、こんなことが独自の企画展でできないだろうかと企画書を出したことが、今日までにつながっています。


ビーコロに限らず、児玉さんは来館者に喜ばれる企画を次々と生み出していますね。夏休みの「自由研究道場」も大変人気です。

「自由研究道場2024」は夏休み期間に5千人以上が参加

日野
ビーコロ装置の製作のみならず、 YouTube含めSNSの発信などもすべて皆さん自前でやっていらっしゃいますが、「ビーコロ展」の『手作り感』は他でもなかなかない手法ですよね。

北田さんがビーコロに関わることになったきっかけはなんだったのでしょうか?

北田さん
私も小学校5年くらいから「ピタゴラスイッチ」を見ていて、学校の教室で算数セットや机を組み合わせてビー玉を転がして遊んでいました。高校時代も科学部の友人と理科室で「ピタゴラ装置」の真似事をやって遊んでいました。“好き”なことを続けていたら、それが仕事になっていた…というのが今の状況です。


理科室での遊びからはじまっていたとは。しかも、当時高校生だった北田さんと科学館スタッフの児玉さんが、同時期に同じ発想を持っていたなんて、運命のようなお話ですね!

北田さん
「ビーコロ展」に出会ったのは高校生の時です。県内の高校生がつくった装置を展示する「ビーコロハイスクール」に武雄高校が参加していたのを見て、うらやましくて2年目に参加しました。

児玉さん
断トツの完成度でした。その後、大学生でもアルバイトで手伝ってもらったりして…

日野
そのまま就職されたのですね。子供の頃から好きなことをそのまま仕事として実現されているお二人ですが、モチベーションが今も継続できている理由は何だと思いますか?

北田さん
今はビーコロ装置だけでなく、YouTube動画製作やチラシの撮影なども自分でやらせてもらっているのですが、自分の趣味や特技を活かして好きなことができるのがこの仕事の魅力です。どれか一つだけではなく、やりたいことが何でもできる、また、それを自由にやらせてもらえる環境であるというのが一番大きいですね。

児玉さんがリーダーだからこそできることだと思います。相談すると「いいんじゃない?やったら」っていつもすぐに言ってもらえるのは、本当にありがたいです。

児玉さん
ビーコロ装置の材料は100均やホームセンターで買うことも多いのですが、予算管理が担当者に任されているので動きやすいです。あとは、なにしろ一人ひとりのスタッフのスキルが高い。自分たちで何でも作れる能力があるというのは強いです。大型装置も最初は外注していましたが、今は自分たちで作っています。

2025年度「ビーコロ×おもちゃ展」大型コロコロ装置製作過程

 学校・企業連携|ゆるやかに地域とつながる秘訣

日野
北田さんも高校時代に参加された「ビーコロハイスクール」は、どのような企画なのでしょうか。具体的にどのような取り組みをされていますか。

児玉さん
毎年「ビーコロ展」で、佐賀県内の3~4高校の高校生が製作したビーコロ装置を展示しています。今は県内の高校に参加してもらっていますが、高校の物理学習の教材としてもよいので、今後は全国にも広がるといいなと思っています。

2024年「ビーコロハイスクール」|科学館側でスタート位置とサイズを指定。材料費(3.5万円)の範囲内で高校生が自由に製作


学校だけでなく、地域や企業とも連携していますね。

北田さん
はい、第13回となる今回の「ビーコロ×おもちゃ展」では、日本トイザらス株式会社さんにおもちゃを提供していただきました。昨年出演したTV番組で知り合った担当者にご相談したところ、快くご協力いただきました。このビーコロ装置に使っているブロックがそうです。

2025年「ビーコロ×おもちゃ展」日本トイザらス(株)展示協力


地域特性もあるかもしれませんが、ゆるやかな人と人とのつながりが展示にも活かされている印象を受けます。柔軟な関係性が構築できる秘訣はなんでしょう?

児玉さん
一緒に楽しんでくれる人と人とのつながりが大きいですね。例えば、ビーコロハイスクールの担当の先生が異動先の高校で再び参加してくださったことで、参加校が増えるケースもありました。また、地域とのつながりは常に意識しています。例えば、大型コロコロ装置で武雄温泉の観光名所を紹介したこともありますし、西九州新幹線が開業したときには地元の観光関係者と連携して鉄道展を開催しました。

北田さん
そのことがきっかけで、新幹線の武雄温泉駅に展示されているプラレールの鉄道ジオラマも製作しました。このようなかたちで地元の観光に少しでも貢献できることはうれしいです。
武雄温泉駅ジオラマ展示

 これからの展望|『ビーコロ展』を全国区へ

日野
最後に、「ビーコロ展」の今後の展望などはありますか?

児玉さん
「ビーコロ展」を全国区に広めていきたいと思っています。夢は、全国巡回展でしょうか(笑)

お問い合わせ頂ければ全国どこでも貸し出し可能です。ワークショップなどのご要望もあれば対応させて頂きます。


そういえば、2013年に「ビーコロ」を商標登録されましたよね。これはこの名称を使わせないということでなく、むしろこの名称を使って「ビーコロ」の楽しさを広めてほしいとの思いからですよね。「ビーコロハイスクール」の対象を全国の高校に拡大することもできそうですし、今後やりたいことや夢はまだまだ広がっていきますね。

今回は「ビーコロ展」のことだけでなく、佐賀県立宇宙科学館に魅力的な展示を生み出し続けるチームがあることを知ってほしいという思いもあり取材させて頂きました。幼い頃からの“好き”と“楽しい”が仕事となり、今もその想いを継続されている素敵なお話を伺うことができました。

是非「ビーコロ展」に足を運んで頂き、“科学するこころ”をもつ研究交流グループのお二人にも会いに来ていただきたいと思います。今後のご活躍も楽しみにしております。

第13回「ビーコロ×おもちゃ展」|今回展示の見どころ

今回の「ビーコロ展」はおもちゃがテーマ。たくさんのおもちゃを使ったビーコロ装置、約20台が一堂に展示されるほか、2021年のTV番組で全国2位になった《ゆめぎんが》ビーコロ製作チームが作る全長20m超えの「大型コロコロ装置」が三年ぶりに復活!大人もこどもも童心にかえってビーコロ×おもちゃで遊ぼう!

展覧会概要

 


開催期間:
2025315日(土) 〜 56日(火)
開催時間:平日9:1517:15 土日祝/ GW期間(4/29~5/6 9:15~18:00
会場:佐賀県立宇宙科学館《ゆめぎんが》
観覧料:常設展示観覧料でご覧いただけます
ホームページ:https://www.yumeginga.jp/sp_exhibition.html
*掲載情報は公開日当時のものです。

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